日本人 教養 講座 「日本刀」…Japanese
Sword…
「♪一家に一本 日本刀♪」
其の17 「レクイェムへのプロローグ」。
愛三木材・名 倉 敬 世
世の中には奇特な人も居られるもので,時として我々凡人には想像も出来ぬ事が起るものであります,欧米では至ってポピュラーな事ですが,我国では未だ余り馴染の薄い制度に生前贈与と申す制度がございます,そんな事は100も承知200も合点だよとおっしゃるでしょうが,これが国に贈与となりますとそうタントは居られません,この時点で贈与は一段上の「寄贈」という文字に変化を致しますが,欧米のミュージアムが充実しているのはこの寄贈と独裁者のコレクションの没収が収蔵品の大半を占めていると云う点であります。
大英博物館もルーブルもエルミタージュもご同様で自国物はほんの僅かで後はすべて世界中からの略奪品ばかりであります,最近では尤もらしく「…その国が安定するまで預かっているのだ!」と強弁をしておりますが,そんな事を言っていると近い将来には原産国からの返還請求で館内はガラ〃〃となり閑古鳥が鳴くと云う事になりかねません。
その点,我国は強奪品も少なく世界に冠たる独自の文化遺産がゴマンとございまして,特に頭に「和風」と付く,衣食住,書画工芸,歌舞音曲,武道,を始め「道」の方でも枚挙に尽きません。これらは全て何世紀もの試練を経て今日に伝えられて来た日本人の「心」その物なのです,他国にはとても真似の出来ない素晴らしい「文化財」なのです,ホリエモンも横文字も片仮名も結構ですが,先ずは自国の文化を知らねば「外国」では相手にもされず,人として物笑いの種にもなりかねません。その意味では「日本刀」は日本人の証あかしとして最適の代物でございやす。
最近では日本人も徐々に変わって来てパブリック・スピリット(公共心)が旺盛になり,美術品の寄贈が多く成りつつあります。其の理由は多様ですが,主に次の3つでしょう。
(1) |
「私はタマ〃〃日本の宝を預かっていたダケなので」お返します。と云う正統派。 |
(2) |
節税対策。寄贈品は相続財産よりカットされますし,他の資産の売却よりも早く処分が出来る,と云う現実派。 |
(3) |
どう云う訳か,親子で趣味が違う,親父が目利きでも伜は全然興味ありません!,手入れも出来ません,と云うケースが意外に多い。それならいっその事,公的機関に寄贈をしてその名前と共に末長く伝えてもらい度い,と云うレクイエム派。 |
寄贈があると美術館では感謝の気持ちを伝える為に「特別寄贈展」の開催を致します。しかし,受取る方にも選択権が有り個人の思い込みだけで収集をしたゴミの山は駄目!,近頃はこの手の善意の寄贈話が多く学芸員が音を上げております。
刀剣の寄贈目録が,2〜3手許に有りますので,参考迄に紹介を致して見ましょう。
A「渡辺誠一郎氏」寄贈展 平成三年七月 東京国立博物館(平成館)
1 |
国宝太刀銘 |
三条宗近(名物・三日月宗近) |
長さ 二尺六寸四分 |
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宗近は,永延(九八七〜八九)の頃京三条に住したと伝え,日本刀成立初期の名工として著名である。この太刀は,腰から茎にかけて強く反り,先はほとんど反りのないもっとも古い姿を示しており,切刃造の直刀から鎬造の弯刀へ変化する過程を考える上でも注目される作品である。地鉄は板目肌,刃文は小乱れで,物打ちあたりに三日月形の二重刃や三重刃がみられることから三日月宗近と称され,天下五剣の一つとされた。三条宗近の在銘の作品は極めて少なく,宗近ときられているものと,三条ときられているものがあり,前者は御物の太刀,後者はこの太刀が代表作である。
豊臣秀吉の夫人である高台院の遺物として二代将軍秀忠に贈られ,以後徳川将軍家に伝来した。 |
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2 |
国宝太刀銘 |
無銘貞宗(名物・亀甲貞宗) |
長さ 二尺三寸四分 |
3 |
重文太刀銘 |
備中国住守次作 |
長さ 二尺八寸七分 |
4 |
重文太刀銘 |
備州長船住兼光(名物・福島兼光) |
長さ 二尺五寸三分 |
5 |
重文太刀銘 |
定利(山城) |
長さ 二尺三寸六分 |
6 |
重文太刀銘 |
無銘貞宗(名物・切刃貞宗) |
長さ 二尺四寸二分 |
7 |
重文小太刀銘 |
長光(名物・蜂屋長光) |
長さ 一尺八寸 |
8 |
重文打刀銘 |
左兵衛尉藤原国吉(号・鳴き狐) |
長さ 一尺八寸 |
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◎刀 銘 左兵衛尉藤原国吉(号 鳴狐)
長五四・〇 反り一・五センチ 鎌倉時代(一三世紀) 東京国立博物館
粟田口国吉は則国の子または弟子と伝え,銘鑑に時代を弘安(一二七八〜)としている。作刀に左兵衛尉を冠しており,受領していることが判る。作刀には太刀,短刀,剣などの作品があり,中でも短刀が多く,藤四郎吉光と並んで,鎌倉中期の粟田口派の代表工である。
この刀は鎌倉時代の打刀の好例で短刀を大きくした姿のもので,やや異風であるが,作風は地沸のこまかくついた小板目の鍛えに小沸出来の上手な直刃で,小丸に返った品格のある帽子となり地刃に同工の特色が顕著である。号の由来は明らかではないが,出羽山形の秋元家に伝来したものである。
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9 |
重文短刀銘 |
左安吉(名物・一柳安吉) |
長さ 一尺六分 |
10 |
重文短刀銘 |
吉光(名物・海部・長束藤四郎) |
長さ 七寸六分 |
11 |
重文短刀銘 |
南都高市郡住藤原貞吉(号・大保昌) |
長さ 九寸三分 |
12 |
重文短刀銘 |
国光(名物・新藤五) |
長さ 八寸四分 |
13 |
重文短刀銘 |
備中国住次直作 |
長さ 八寸九分 |
以上 国宝2点 重要文化財 11点 計13点。(他 日刀保指定品 多数)。
これらは総てが名刀中の名刀でどの刀も由緒伝来が確りしており,出来も抜群に優れ,刀工の流派を代表し,一刀で一冊の本が書け,一日中でも熱く語ることの出来るような,日本を代表する名だたる名刀ばかりであります。
特に三条小鍛冶の「三日月宗近」は正に日本刀の原点でどの刀剣書も巻頭に掲載して紹介をしております。今日では日本で一番知名度の高い刀ではなかろうかと思います。代価は「無代」が本来なのでしょうが,五億と云えば五億,十億と云えば十億でしょう。税務署の評価委員…一般物は委託を請けた地域の刀剣商…に一度聴いて見たいものです。国指定の物(重文・重美)で古来よりの名物は長物で1億〜3億,短刀で最低5千万位で,これらの指定物の他にかなりの重文予備群と云うべき刀も有りましたので,この場合のトータルの金額は如何程か見当も付きませんが,ウン拾億には間違い無い所でしょう。
羨ましい〜!,は別にしてガッカリしているのは刀屋で「勿体無い〜」の大合唱です,一度,博物館…特に国,に入れば二度と出ませんので,その分だけ市場に出回る売物が少くなるので無理からぬ事ではありますがコレクター冥利に尽きますな。羨ましい〜!。
B「藤沢乙安氏コレクション寄贈展」平成十三年八月 (財)日刀保・刀剣博物館
1 |
国宝太刀銘 |
国行(来) 鎌倉時代(一三世紀) |
長さ 二尺五寸三分 |
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来国行は来派の事実上の祖で,現存する作のほとんどが太刀であり,その体配には,やや身幅の広いものと,比較的に細身の二様がある。 この太刀はやや細身ながら鎌倉中期の太刀姿の典型で,同工の代表作である。なお,樋中の三鈷付剣の浮彫は同工同派に類をみない。作風は小沸できの丁子刃で小丁子がまじり刃中よく働いた刃文にやや肌立った地沸のついた板目肌である。明石の松平家に伝来したものである。 |
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2 |
国宝太刀銘 |
国行(当麻) 鎌倉時代(一三世紀) |
長さ 二尺三寸 |
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国行は大和当麻鍛冶で,その祖といわれ,銘鑑には正応(一二八八〜)のころという。有銘作はごく少なく,この作は当麻国行の代表作である。作風は鍛えが小板目肌で刃寄りが柾がかり地沸つき大肌交るもので,直刃調に浅く湾れた刃文に小丁子。小互の目,小乱れなど交り区上二重刃となって総体に砂流しがかかるものとなり,帽子は小丸に掃きかける。無銘極めの作に比べておだやかな調子となる。阿部豊後守家重代のものであった。 |
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3 |
重文太刀銘 |
備前国住人雲次 正和二二年拾月日 |
長さ 二尺六寸 |
4 |
重美太刀無銘 |
伝 正宗(名物・武蔵正宗) |
長さ 二尺三寸三分 |
5 |
太刀銘 |
備州長船次行 |
長さ 二尺二寸六分 |
6 |
薙刀直し銘 |
無銘(片山一文字)(銀象嵌)
所持 井原掃部助 |
長さ 二尺二寸八分 |
7 |
刀銘 |
無銘(福岡一文字) |
長さ 二尺一寸九分 |
8 |
刀銘 |
無銘(長船倫光) |
長さ 二尺四寸 |
9 |
刀銘 |
無銘 青江恒次 |
長さ 二尺二寸四分 |
10 |
刀銘 |
永盛作(平高田) |
長さ 二尺三寸二分 |
11 |
刀銘 |
藤原広実 |
長さ 二尺二寸六分 |
12 |
刀銘 |
津田越前守助広 寛文七年八月日 |
長さ 二尺三寸四分 |
13 |
刀銘 |
津田越前守助広 延宝九年八月日 |
長さ 二尺五寸一分 |
14 |
刀銘 |
丹波守吉道 寛文六年八月吉日 |
長さ 二尺二寸五分 |
15 |
刀銘 |
清尭(花押) |
長さ 二尺一寸六分 |
16 |
刀銘 |
住東叡山忍岡辺長曾祢興里作 |
長さ 二尺二寸八分 |
17 |
刀銘 |
荘司筑前大掾大慶藤直胤(花押) |
長さ 二尺三寸三分 |
18 |
刀銘 |
奥州仙台住藤原国包 |
長さ 二尺一寸一分 |
19 |
刀銘 |
備前国住長船七兵衛尉祐定 |
長さ 二尺二寸五分 |
20 |
脇差銘 |
国正(堀川) |
長さ 一尺三寸三分 |
21 |
脇差銘 |
越前守助広 |
長さ 一尺四寸五分 |
22 |
脇差銘 |
肥後守国康 |
長さ 一尺八寸 |
23 |
脇差銘 |
長曾祢興里入道乕徹 |
長さ 一尺五寸 |
24 |
脇差銘 |
長曾祢興里入道乕徹 |
長さ 一尺六寸四分 |
25 |
短刀銘 |
来国次 |
長さ 八寸二分 |
26 |
短刀銘 |
国光(新藤五) |
長さ 八寸二分 |
27 |
短刀銘 |
備州長船倫光 康安元年七月日 |
長さ 八寸三分 |
28 |
短刀銘 |
備州長船盛光 応永三十年八月日 |
長さ 八寸八分 |
29 |
三鈷柄共造剣 |
無銘 末手掻 |
長さ 二尺三寸六分 |
30 |
長刀無銘 |
平高田 |
長さ 三尺五寸八分 |
31 |
長刀無銘 |
平高田 |
長さ 三尺七寸七分 |
…刀 装 具…
1 金梨子地三巴紋散鞘糸巻太刀拵 …寛文六年紀 丹波守吉道刀の拵…
2 牡丹獅子文兵庫鎖太刀拵 …平高田永盛刀の拵…
3 鶏足皮包三葉葵紋散鞘殿中鐺刀拵 …名物・武蔵正宗の拵…
4 朱塗鞘宝尽文金欄鞘打刀拵 …正和四年紀 雲次太刀の拵…
5 黒皺革包鞘篤興金無垢金具打刀拵 …福岡一文字刀の拵…
6 黒蝋色塗鞘打刀拵 …慶安二年紀 七浜衛尉祐定刀の拵…
7 黒蝋色藤蒔絵刻会口脇差拵
8 堅木造四霊文腰刀拵
以上 国宝2点 重要文化財1点 重要美術品1点 他 日刀保指定品 多数。
こちらも国の指定物が4点ありかなりの物です,流派別での「国行」の国宝が二振り揃っているのがユニークな見所です。武蔵正宗の鶏足皮の拵は刀剣界では有名な物です。
この武蔵正宗は阿波の蜂須賀公の佩刀で,上記の鞘の他に金具は総て金無垢の卍紋で珍しい縦の印篭刻の黒漆塗の替鞘を,小生もその昔,所持していた事が有りましたが〜。
※上記の刀装をスラ〃〃と読める方は「太平記」のお好きなご仁ですな,コレ間違いナイ!
C木村篤太郎氏(元国務大臣)寄贈 (財)日本美術刀剣保存協会
1 |
国宝太刀銘 |
延吉(後水尾天皇差料) |
長さ 二尺四寸二分 |
2 |
国宝太刀銘 |
宗吉(後鳥羽天皇御番鍛冶) |
長さ 二尺三寸 |
3 |
重文太刀銘 |
兼永(五条) |
長さ 二尺五寸四分
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この他に「日刀保」には以下の如く持主の委託を受けた管理文化財がございます。
D「日本美術刀剣保存協会管理文化財」
1 |
国宝太刀銘 |
筑州住左(江雪左文字) |
長さ 二尺五寸八分 |
2 |
国宝太刀銘 |
正恒(古備前) |
長さ 二尺五寸六分 |
3 |
国宝太刀銘 |
則房(備前片山一文字) |
長さ 二尺五寸五分 |
4 |
国宝太刀銘 |
長光(熊野三所権現) |
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5 |
国宝太刀銘 |
国宗(備前三郎,御番鍛冶) |
長さ 二尺四寸三厘 |
6 |
国宝太刀銘 |
国行(来) |
長さ 二尺三寸五厘 |
7 |
国宝刀 銘 |
金象嵌・正宗・本阿(名物・中務正宗) |
長さ 二尺一寸一分 |
8 |
国宝短刀銘 |
無銘・貞宗(名物・寺沢貞宗) |
長さ 九寸七分 |
9 |
国宝短刀銘 |
備州長船住長重・甲・戌 長さ |
長さ 八寸六分 |
10 |
国宝短刀銘 |
国光(名物・会津新藤五) |
長さ 八寸四分 |
11 |
国宝短刀銘 |
左・筑州住 |
長さ 七寸八分 |
12 |
国宝短刀銘 |
筑州住行弘(観応元年八月日) |
長さ 七寸七分 |
13 |
重文太刀銘 |
備州長船景光(本多平八郎忠為所持) |
長さ 二尺八寸強 |
14 |
重文太刀銘 |
久国(粟田口) |
長さ 二尺六寸九分 |
15 |
重文太刀銘 |
国清(粟田口) |
長さ 二尺六寸二分 |
16 |
重文太刀銘 |
長光(備前長船) |
長さ 二尺五寸六分 |
17 |
重文太刀銘 |
近房(備前長船) |
長さ 二尺四寸七分 |
18 |
重文太刀銘 |
備前国長船住人真光 |
長さ 二尺四寸七分 |
19 |
重文太刀銘 |
長光(備前長船) |
長さ 二尺三寸二分 |
20 |
重文刀 銘 |
無銘(伝・光忠・高麗鶴 金象嵌) |
長さ 二尺四寸六分 |
21 |
重文刀 銘 |
無銘(伝・来国光) |
長さ 二尺三寸一分 |
22 |
重文刀 銘 |
無銘(名物・石田切込正宗) |
長さ 二尺二寸五分 |
23 |
重文薙刀銘 |
是介(古備前) |
長さ 一尺四寸七分 |
24 |
重文直刀銘 |
無銘(上古刀) |
長さ 二尺六分 |
25 |
重文蕨手刀銘 |
無銘 |
長さ 六寸 |
是らは将来有力な寄贈品の候補となりえます,この様なケースは年々増加しており,世の中の景気とは連動しておりません,又,依頼人は年配のご婦人が多いのも特徴です。
皆様も是非ご商売でタント儲けられて,お好きな物を求められて充分に楽んだ後はぜひ国に寄贈され国家国民に喜んで頂く,と云うパターンは如何なもんでござんしょう。
合掌。
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