東京木材問屋協同組合


文苑 随想

天災と人災

江戸川木材工業(株)
常務取締役 清水 太郎

 かつて私は,天才といわれたことがある。木造住宅の建築を請け負って,完成引渡し後,数年経って,アフターケアで訪問したときのことである。
 住宅建築はまじめにやれば,誰でも立派に出来る。特に褒められることはしていない。
 ところが,その顧客は完成後,支払いを済ませたら最後,さっぱりやって来ない,もう私のことなど忘れかけていたとき,ひょっこりやってきたものだから,『天災はわすれたころにやってくる』の譬えを皮肉を込めておっしゃったことが判明した。
  あれから30年,建売住宅,注文建築,ツーバイフォー住宅,貸家,小型マンションと,元請,下請けを含め,引き渡した住宅は約3000戸を数えることが出来る。
  今では,阪神淡路大震災を契機として,地震に強い家への改修提案もするようになった。
  ところが,阪神淡路大震災10周年になろうとしているとき,新潟中越地震が起きた。スマトラでは,地震による大津波で30万人が亡くなった。玄海灘では,空白地帯といわれていたにも拘わらず,震度7の地震により,全島民が避難する,という惨事となった。
  つまり,今の天災は『忘れぬうちにやってくる』のだ。
  前例があろうとなかろうと,今の日本列島はいつ,どこで大地震が起きても不思議ではない。
  建築物の地震防災推進会議においては,日本の住宅ストック4700万戸のうち,25%の1150万戸に対して,耐震性が不十分である,との判断を下した。
  これを10年以内に9割を耐震化しようという目標を立て,無料診断をする,改修に補助金を出す,等の政策を立案するという。
  しかし,自分の生命,財産はお上頼みではなく,自分のリスクで守るべきである,と私は考える。
  いつきても不思議ではない地震に何も備えもせず,酷い目に遭うことになれば,これは天災とは言わず,人災というべきである。

 



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