東京木材問屋協同組合


文苑 随想

見たり,聞いたり,探ったり No.90

「姥湯温泉」見聞探の記
「混浴露天風呂」編

青木行雄


 東京から東北新幹線で福島まで行き,そこから,ローカル線・奥羽本線で約30分,峠駅で下車した。電車は2?3時間おきで,1日数本しかないので注意が必要である。ローカル線の峠駅は名前の通り峠だから海抜6百何拾メートルとかで,JR駅の中では高い方とのことで,もちろん駅員もいない山間の田舎駅であった。ところがおもしろい事に,近くの1軒しかない茶屋から,峠の茶屋餅を売る売子がいた。峠の駅弁ではなく,峠の駅餅であった。
 峠から温泉までは,1日2回の送迎はあるが予約が必要である。
 この峠駅から送迎バスに揺られながら約30〜40分。
 温泉地の海抜が1300mあるから約40分の道のりは700m登る山道で,スイッチバックしないと上れない場所もあって,運転士は慣れているとは言え必死であった。峠駅の近くには民家は見当たらないのにかなりの車が留めてあった。運転士に聞くと,登山者や温泉利用者の場合,宿の車を利用していると言う。2〜3日留めていても,平気な様子であった。

※福島から出る,ローカル線・福島←→米沢間を走る車両,ドアーはボタンを押して客があける。ローカルらしい。

※海抜約600mぐらいの所にある「峠」駅,無人駅であるが,雪止めであろうか大きな屋根で覆われている。
 峠駅から途中に「滑川温泉」があった。更に登ったが,中間で車が来るとすれ違いが出来ない場所が多く,時間が掛かる。崖っぷちを走ったり,森林を走ったりスイッチバックしながら山道を走って約40分,中国の南画を見るような断崖絶壁の景観が見えて来た。かなり手前でバスを降りたが,車はここまでと言う。ここから300mは楽にある山道を徒歩で登る。客の手荷物や宿の食料は,「索道」を200m利用していた。
 手荷物は,宿の人に預けて,つり橋を渡り,川に沿って山道を登って行く,結構急坂で辛い。車での日帰り客も多く,かなりの車が駐車していた。


※ 木材等を運ぶ,「索道」と言う機械を利用した荷運の風景である。剥がれた岩肌が露出していて,川水は温泉水のために魚は生存していないと言う。
 この様な山奥の1軒宿ではあるが,近年,新築改造して宿は新しい部屋であった。山奥の為に電気は自家発電で,テレビも見られる。電話は衛星電話で通話出来るが,携帯電話は使えなかった。しかし,事務所では,パソコンをフルに使い,年内の土日は,ほぼ満員の予約客であると言う。山奥の1軒宿は雪も深いので営業日数が限られ,4月下旬から11月下旬で営業は終了。稼ぎ時間は半分である,近年秘湯ブームに支えられ,結構賑わって休日には日帰り客だけでも,300人以上訪れると言う。


※ 下に見える小屋が自家発電の家であり上に見える家が宿泊用の棟である。
 「姥湯温泉」1軒宿の「桝形屋」は歴史は古く現在の主人は17代目で60才?ぐらいであるが18代目もいて,一緒に事務所の中で働いている。聞く処によると,昔はこの近くに金鉱があり,先先代は鉱山師でこの山奥に金鉱を求めてやって来たそうだ。「桝形屋」の名前の由来を聞くと,昔,金等を桝に入れて上納していたのでこの名前がついたのだと言う。又,姥湯の名前の由来は,鉱山を探していた時,山中の山小屋で山姥より源泉を教えられたという伝説を番頭から聞いたが,確かに伝説に相応しい仙境の秘湯であった。
吾妻連峰の北斜面,標高1300mの渓谷にあって,中国の南画の世界を思わせる,奇岩怪石がそそり立つ絶壁に三方を囲まれ,仙境の趣を存分に味わえた,一泊旅行であったが,平成18年の山形の大洪水で露天風呂が,1風呂流され,女性専用1ヶに,混浴が1ヶの2露天風呂であった。夕方6時〜8時まで,混浴が女性専用になり,時間制限はあったが,内湯は男女別々にあって,風呂に不満はまったくない。

※混浴の露天風呂,中央に見える小屋が男女別々の脱衣場だが中は見える。写真では見えないがこの右隣の奥にあった露天風呂が流されたらしい。6源泉がある1つのようだ。
※そそり立つ岩肌が圧感であり,怖ささえも感じた。硫黄山とも言う様なむき出しの岩,流石もありそうな旧爆裂火口の温泉ではあるが,苦労しながら18代も続いたと言う現実。荒々しい環境ではありながら,温泉は乳白色で,都会の我々人間をも自然の優しさに浸らせてくれる山の1軒宿であった。秘湯ブームに支えられ,こんな山奥に日帰り入浴客だけでも休日には300人以上訪れると言うから,ブームは凄いと思う。日帰り入浴料500円也。
 宿の上には,源泉が6箇所あると言うが,この宿は2源泉使っているようである。他の4つは川へ垂れ流しと言う,見ると岩の間から硫黄が吹き出し,見るももったいない思いであった。

※硫黄が吹き出していて,川に流れている,こんな所が何ヶ所か見られる。
混浴露天風呂について…


 宿泊棟の奥に男女別々の内湯があって,一晩中入ることが出来る。日帰客は内湯には,入れないが,露天風呂に行く途中,横を通るので中の様子が多少分かる。その内湯の上側に女性専用露天風呂がある。廻りを板塀で囲んでいるが多少中の様子が見える。その横を通って小橋を渡り混浴の露天風呂に行くわけだが三面の山々がそそり立っていて圧倒される。乳白色の温泉は四方から見えるので,最初,女性は男のように気軽に入ると言うわけにはいかないようだ。女性の先客がいれば,あまりためらいは無いようである。この混浴風景の写真を撮るには大変気を使う。入浴客が多くても,少なくてもそれなりに,後で何か言われるのではとヒヤヒヤである。下の写真は少人数なので,遠くから写して,近くに来たら,どっと女性が入って来た,残念。
※乳白色の温泉の中の写真だが,この後どっと男女が入って来た。
 
※この写真を見ると山奥の仙境らしさがお解かりと思う,山奥の谷間に建つ「一軒宿」。1300mの場所に山は梅雨の霧霞。
 日本にも秘境の温泉は結構あって,それなりに景観はそれぞれ違うが,ここ姥湯は圧巻である。そして意外と女性客が多い。秘湯ブームの効果もあるらしい。テレビの番組企画で温泉とラーメン番組をやれば,外れがないと業界では言われている,とマスコミが言っていたのを聞いた事がある。確かに最近,地方の温泉番組をよく見る事が多い。ここ姥湯もこの企画が多く,再三撮影班が来るらしく,迷惑だと言っている位だそうだ。

  何が日の目を見るか,何が当ってブームになるのか,どんな仕事が良くなるのか,なかなか予想は難かしいが,じっと我慢しながら,火を消さないように一生懸命がんばっていれば,この姥湯温泉みたいに17代目にしてブームとなり,この秘境の山奥で,パソコンを操り,ホームページで世界の方方から来客があると言う時代になった。昔はこの山奥に何時間も歩いてしか行けなかった。時代は変わったものである。私もがんばろう。

  仙境の
   岩の合間に
    流れ出る
     新緑の姥湯
      南画を思う

  そそり立つ
   奇岩の眺め
    狭き空
     朝日が照らす
      梅雨の合間に

  岩肌の
   崖の合間に
    お湯が湧き
     温水となって
      川に流れる

  秘境とは
   姥湯のことか
    山奥の
     そそり立つ岩
      見るも仙境

  商売は
   じっとがまんで
    がんばれば
     いつか目が出る
      朝日もあたる

平成19年7月22日記

 


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