東京木材問屋協同組合


文苑 随想


日本の文化 「日本刀」…Japanese Sword…

「♪一家に一本 日本刀 大黒柱と日本刀 相続税にも日本刀♪」

其の50(天下の名刀・アラカルト)

愛三木材・名倉 敬世

これが,天下に名高い源家の重宝「鬼丸」にて候。御物・宮内庁・三の丸尚蔵館展示。
御物 太刀 銘 国綱(名物・鬼丸)

太刀 銘 国綱(名物・鬼丸)刃長78.2cm 反り3.2cm 鎌倉時代(13世紀)
「刀身形状」鎬造り,庵棟,反り高く腰に踏ん張りがあり茎も反る。中峰。茎は生ぶ。
栗尻。鑢目勝手下がり。目釘穴一。佩表棟寄りに二字銘。
「鍛え」板目肌立ち,地沸厚く付き乱れ映りとなる。
「刃文」浅くのたれて上半に大丁子刃・足・葉入り,下半は乱れ刃となり荒めの沸が付く。
表裏に腰刃を焼き,僅かに焼落す。帽子は乱れ込み先大丸ごころに返る。

※我国の刀剣の名産地は,古くは(古刀),大和,山城,備前,相州,美濃と決まっていて揺るぎ無い。品質,品格,数量,等がその判断基準であるが,おおむね千年間の識者の賛同を得ている。勿論,美術品でもあり芸術品でもあり,現品限りでも有る為に作者の突然とした昇華変貌は有るが,グループ全体の評価は常に一定しており余り狂いは無い。
 その意味に於いて本日紹介をする,山城(京都)の「粟田口」鍛冶の作品はその全てが質実剛健であり,且つ品格も兼ね備えた我国を代表する鍛冶集団である。

 「粟田口鍛冶」京都の粟田口に鎌倉期に大和(奈良)より国頼の子の国家が移住して来て,後鳥羽上皇の番鍛冶が多く出た刀工群…国友・久国・国安・国綱…国清・国吉・吉光・則国。国安は東郷平八郎元帥,国清は新井白石の愛刀,国綱には鬼丸や蜘蛛切の名物があり,吉光は天下三作の一に数えられ,「享保名物帳」に多くの名作を遺している。
 作風は鳥居反りの優美な姿で地鉄は地沸えのついた美しい小板目肌,刃文は直刃調,小乱れ交じりの沸え出来で,気品のある名刀の典型とされており,能・狂言にも多数その名は使われており,駄作が少なく平均点が高い。しかし現存品は少ない。
革包太刀拵 [刀身 銘 国綱(名物 鬼丸)]

 「刀装形状」黒漆革包太刀,鞘,皺皮包,足革包,太鼓金は銅漆塗り,渡巻茶糸平巻,柄,革包茶糸平巻,目貫,丸に桐紋金容彫。
 当時の拵えがそのまま残されており,先月号の「狐ヶ崎・為次」同様,大変貴重である。

 上記の天下の名刀,「鬼丸・国綱」の来歴とはハテサテ如何なる物かと申しますと〜。
貞観十五年(873),清和天皇の第六皇子の貞純親王の子の六孫王経基(第六王子の子の意)は臣籍降下をして「源」の姓を賜り,ここから「源氏」が発祥し「平氏」は源氏より16年後の寛平元年(889)に桓武天皇→葛原親王→高見王の子の高望王が臣籍降下し始祖と成ります。
 源氏の経基の嫡子の多田の満仲(音読)は「天下の守護たるべき」と帝から勅命を受けて,先ずは「良き剣」を求めた。出典「平家物語」(剣の巻・下)。「太平記」。
 それによりますと,筑前国御笠郡より鍛冶の上手を招き,源氏の氏神である宇佐八幡に参篭させ祈願の後に都に上り,最上の鉄を六十日に亘り鍛え,二尺七寸の剣を二振り作り,罪人を試した。一振りは「髭一毛も残さず切れた」ので「髭切」,他は「膝まで薙いだ」為,「膝丸」と名付けた。但しこの両剣も後に幾度となく改名を致し,現物と伝承と差異あり。
 源満仲(912〜997)は摂津の多田に住し多田満仲と名乗り,摂津,武蔵,伊予,美濃,信濃,下野,陸奥の守を歴任し鎮守府将軍も勤め,在地の武士団を作り上げて,摂関家に仕えて,「天下を守護して靡かぬ草木もなかりけり」と云う程の棟梁的人物でありました。
 その後,膝丸,髭切の両剣は無事に満仲の嫡子・頼光に伝わりますが,この頃の京の都は「宇治の橋姫」なる鬼女が現れ,人をかどわかす被害が続出したため,日暮れともなると都大路は人ひとり見えぬ有様でござった。その様な時に頼光の郎党の渡辺綱が命を受けて使いに出かける事になりやした。深〃と夜も更けて参りましたので,流石の豪勇の頼光もチト考え,「髭切」を貸し与えました。案の定,綱が一条・戻橋に差し掛かった所,妙齢の美女が現れ「夜更けて恐ろしいので,送って頂戴?」と頼むので,綱は馬から下り代りに女を乗せると,女は「わらわの行く所は愛宕山ぞ」と,綱の髻を掴み愛宕山に向かって走り始めた,この時,綱は少しも慌てず,「髭切」を抜き合わせ,鬼女の手を切り落とすと,その手と綱とが一緒に北野天満宮の境内に堕ちた。祭神は天神様(菅原道真)で雷でござんす。確りと髻を掴んでいた手を見ると,雪の肌と見えたのが,剛毛の生えた色黒い手であった。
 その手を持ち帰ると,陰陽師の安倍清明に「七日間の物忌と仁王経を唱えよ」と云われ,そこで,朱の唐櫃に納めて四方の門を固く閉じ番衆を置いて,夜毎に蟇目の矢を射させた。物忌みの最後の七日目の夜に,河内国高安の里より頼光の母と云う老女が尋ねて来たので,門を開き内へ入れ珍物を調え歓待し,物忌の訳を語ったところ其の手を是非とも見たいと所望され,不用意に見せたところ,「これは我が手にて候」と自分の肱の傷跡に差し込んで,忽ち,二丈(6m)ばかりの牛鬼と化し綱を左手に引っ提げ天井の煙出しより脱走を図った。そこで,頼光は件の太刀を以って牛鬼の首を切って落とした。するとその首が頼光に飛び掛って来たので太刀を逆手に取り直し,合せると切先が首を貫き流石の牛鬼も絶命した。その骸は暫く綱を離さなかったが,やがて破風より抜け出て天に昇っていった。
 渡辺党が家作りに破風を作らないというのは,こうした訳が有るからだと云われている。
頼光の老母,腕を取るや牛鬼となり,綱の髻を把む。

 さて,実は「鬼切」や「鬼丸」と云う名の太刀はこの世にはかなり有りまして,伝承はすべからく「その昔,鬼を斬った」という類でありますが,源氏にも他に一振り「鬼丸」の太刀がございます。前述の「髭切→鬼丸(渡辺綱)」が天慶三年(940)頃ですので,時代は大分新しくなり,北条時政が実権を握った建仁三年(1203)の頃ですので約260年程の差異がありますが,現在ではこの新しい「鬼丸」伝承の話の方が,一般には流布されております。
 これは,北条時政(頼朝の妻・政子の父)が二代将軍頼家を謀殺して天下を握ってから,毎夜,枕元に小鬼が現れ不眠となりノイローゼとなった。ある夜,夢の中で太刀が一人の翁に変身し,「我はあの化物を退治しようとしたが,汚れた手の人が触ったので錆が生じ,鞘から抜け出せない,化物を早く退けたいのなら清純な者に我身の錆を拭わせなさい」と云って,翁は元の太刀に戻った。時政は不思議な夢と思い乍も,翁の指示する如く近習に斎戒沐浴をさせ,太刀を拭わせて鞘には納めず抜身のまま,傍らの柱に立て掛けて置いた。寒の頃だったので,部屋には火鉢が有り,その火鉢の足に子鬼が銀で容彫となっていた。目には水晶を入れ,歯には金が被せてあった。
 「わしの夢に出て来る子鬼と良く似ているな」と時政がこれを見ていると,立て掛けてあった太刀が倒れ掛かって,火鉢の小鬼の首をアッーと云う間に切り落としてしまった。すると,時政の気分もアッーと云う間に良くなって,以後は全く子鬼の夢を見なくなった。そこでこの太刀を「鬼丸」と名付け,最後の執権・北条高時に至る迄,平氏(北条氏)嫡流に伝えて守り刀となった。太平記,第32「鬼丸・鬼切の事」…時政は時代を合せると時頼か?。
 この五代目の執権・時頼の時代は蒙古来襲も近い為か,備前より三郎国宗,一文字助真,山城(京都)の粟田口より国綱を呼び寄せて鍛刀させています。この三工が後の「相州伝」の始祖となり,新藤五国光,藤三郎行光,五郎入道正宗,彦四郎貞宗,の名匠が続きました。

 尚,名刀は時代により評価が大きく変化をして参りますが,多数の意見が揃い始めるのが鎌倉時代,南北朝期と室町前期(応永・1400)迄であります。これは,是までに承平・天慶の将門の乱を初めとして,前九年・後三年,保元・平治,源・平・争奪,南北朝騒乱,等が続きこれらの実戦で刀剣の真価が問われ,ランク付けがなされ,評価が定まった為でありんす。
 因って,伝家の宝刀とか云う刀は応永以降はガクンと少なくなり,自称が多くなります。

 因みに,鎌倉期の足利将軍家の三刀とは「鬼丸・国綱」「二つ銘・即宗」「大典太・光世」,又「三日月・宗近」「童子切・安綱」を加えて天下五剣とも申しますが,他にも「数珠丸・恒次」「骨喰・藤四郎」「大般若・長光」等が将軍家の重宝として,最後の将軍十五代・足利義昭に伝えられて行ったハズですが,?時は戦国末世,毎日々々〃〃,チャンチャンバラバラで可也の名刀もバラバラになりましたが,この「鬼丸・国綱」は義昭より豊臣秀吉に贈られ,秀吉は刀剣研磨の本阿弥家に預け,徳川八代将軍吉宗が台覧したと云う記録はありますが,又,そのまま預けられて,明治14年に本阿弥家から明治天皇に献上され現在は「御物」であります。「御物」とは天皇の私物という事ですが,国の指定文物の枠外ですので,国宝や重文とかの指定にはなりません。主に献上物ですが,大手門を入った先にある「尚蔵館」に時期により展示してありますので,ぜひ一度はご覧下さい。…勿論,ロハです。

 日本史で面白いのは,何と云っても「南北朝」期だと思います。天皇,公家,武家,山賊,妖怪,全てが命がけの出演で面白い事,この上なし。何たって最後は後醍醐の正義が負け,尊氏の悪が勝ち勧善懲悪の逆なのだから,さあ?ドウスル,DO?どうなさるの世界です。
 この時期,刀剣の上でも百花繚乱で日本刀は千変万化を致します。乞うご期待…。


前のページに戻る

Copyright (C) Tokyo Mokuzai Tonya Kyoudou Kumiai 2008