東京木材問屋協同組合


文苑 随想


『歴史探訪』(32)

江戸川木材工業株式会社
常務取締役 清水 太郎

 私が生涯のうちで,是非行って見たい処がいくつかあります。
 屋久島,伊勢参り,四国八十八ヶ所などですが,インドネシア,ジャワ島にあるブロボドールの遺跡もそのうちの一つです。
 平成6年(1994)の暮れに,飛澤さんという人から突然電話を頂きました。
 私は,その年の春のある日,ふっと思い立って,東海道五十三次を歩き始めました。
 自分一人で始めたことですから,楽な気持で,休日のたびに行けるところまで行って,その日のうちに戻って来ます。1年は52週間ですから,日曜日に五十三次の一区間を歩けば,1年で京都へ辿り着ける,という甘い計算を立てました。結局は,約30回歩いて,10月の時代祭りの日に,三条大橋に立つことができました。途中で見たこと,経験したことを書きとめ,静岡県の原宿から,弥次喜多となって同行してもらった友人の萱原画伯のスケッチも入れて「ぶらり東海道旅日記」を出版しました。今は故き下町タイムスの今泉社長の紹介で,読売新聞の取材を受け,その記事をご覧になった飛澤さんは,東海道ネットワークの会に入りませんか,というお誘いをされました。
 インドネシアは南洋材の宝庫で,日本で輸入する外材の大半がこの地域から来た時期もありました。
 飛澤さんは,製材工場,合板工場などに集塵装置を取り付ける仕事をされていました。
 製造した機械がインドネシアで稼働することになり,乞われて何回か出張した折,たまたま遺跡の存在を知り,以来取り憑かれたようになりました。家督を息子さんに譲ってフリーになると,今まで片手間であった遺跡の研究に増々熱中され,以来二十年以上も虜になっておられます。
 その熱意たるや,若い頃神話で知った,トロイの遺跡を,功なり名をとげてから,探求し,遂に発掘に成功したという,あのシュリーマンを彷彿させてくれます。
 私も氏から送られて来る手紙で御教授賜った成果により,仏教の発祥から,伝来の経路,日本に伝わった経緯に,東海道五十三次が大きく関わっていることが,おぼろげながら見えて参りました。
 8世紀半ば,中部ジャワにシャイレーンドラ王朝が起こりました。王朝はジョクジャカルタ西北部の丘陵地帯に世界最大の仏教遺跡ボロブドゥール寺院を建設しました。そこには仏典に題材をとった浮彫(レリーフ)が1460面あります。同じ頃,奈良に東大寺が建てられました。東大寺は華厳宗です。華厳経の終章「入法界品」でその経典は,「善財童子」が聖人,五十三菩薩を尋ねて「仏の道」遍歴求法の旅物語です。
 東大寺二月堂のお水取りの儀は3月12日です。善財童子は文殊菩薩に諭され,3月12日,日本橋を出立します。
 五十三菩薩を尋ねる真中で,11面観音に邂逅しますが,その日が旅立ちして27日目,4月8日,お釈迦様の誕生日に当たります。
 飛澤さんは,インドネシアの遺跡と五十三次の宿場を探訪し,経典の美しい夢物語を解き明かされたことでしょう。
 私もいつの日か,ブロボドールの遺跡に立って,夢のお裾分けにあずかり度いと思っております。



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