6月中旬頃から若干値戻しになったが,国産杉桧丸太の相場が非常に安くなっている。そして杉桧の製材品は実需が不活発のため,現状では反発の気配が余りない。
都下桧原村とあきる野市(元・五日市町)に有る約17haの当店社有林は,数年前雑木の部分を除く約14haの列状間伐を東京都森林組合にお願いして行った。間伐の費用は全額助成金で行ったが,伐木後の搬出造材玉切り等は全て所有者持ちなので,伐りっぱなしで山に放置された山林も多い。放置された材が有ると,残されてこれから生長する木の品質が低下するとのことであるが,背に腹は代えられないのが森林所有者の現状である。当店の桧原村の山林は樹齢約70年で山裾に林道が有るので,全量搬出した。しかし林道迄の搬出,造材玉切り,日の出町の多摩木材センター(協)へのトラック輸送,市場の椪列費と手数料等を差引くと,出材した材の全量を販売してもいくらの利益も残らなかった。
あきる野市の山林は45年生の杉であるが,林道から離れているので,やむを得ず伐りっぱなしにして山に放置した。今でも残念に思っているが,みすみす赤字になることが分かっているので,店としてはそうせざるを得なかったのである。
しかし,間伐後の山林は明るくなって下草も生えたので,よい山になって欲しいと思っている。
奥多摩地域は奥多摩町と桧原村が人工林の主要産地で,日の出町,青梅市がそれに次いでいる。そして製材工場は日の出町に多い。しかし私共を始め少面積の山林所有者がほとんどなので,丸太の供給が不安定であり,従って大規模工場は存在しない。林業も製材業も,西多摩,南多摩,北多摩等地元の大工,工務店相手の家業である。そして,現在はプレハブや中小規模建売業者の建築が増え,大工,工務店はその下請仕事が多くなっており,外材を主に使うので奥多摩材の需要が少なくなった。
この数年,地元材を使おうという動きがでており,喜ばしいことであるが,まだ現状では大きな需要にはなってはいないようである。今後の活動に期待する次第である。
一方,大林業地には大規模工場が生まれている。地元の国有林,公有林と素材安定供給契約を結ぶ工場も有り,また広大な自社林を持ち素材を自社林でまかなえる工場も有る。それらの業者は乾燥設備,集成材設備等を備えている工場もあり,まさに綜合木材産業である。
何故,ムクの国産杉桧製材品の需要が減り,構造材の多くが集成材になったのかを,私なりに考えてみた。
そして,現在のプレカット機械に問題が有るのではなかろうかと考えるようになった。
私の平野町の自宅は昭和39年に建てた木造2階建軸組み工法住宅である。築45年になるが現在も外壁のモルタルにひび割れ一つない。まだ50年位は十分使えそうである。(但し孫達が使えばだが)
この家は和室は2階の家内の部屋ひとつだけ,あとの部屋は全てナラのムクのフローリングを張った。従って,平面的に家が歪む心配はほとんど無い。外壁は12粍の合板(当時は構造用合板が無かった)をラス下地として使用し,柱としっかり止めたので,壁の歪みもない。モルタルにひび割れが生じないのはラス下地が確りしているお陰である。立体的な歪みも心配しないでよいのである。その他,壁の配置,2階の窓と1階の開口部とのバランス,(なるべく同じ立面にする)も考慮した。外見はあまり格好良くはないが,地震にも強く住宅の耐久性も抜群だと自負している。土台は青森ひば,構造材は全て国産桧の製材品を木場内で購入した材で,KD材ではない。
長々と自宅のことを述べたのは,住宅建築は軸組みでも2×4でもムクの一般市販材で十分なことを書きたかったからである。
60才位のベテラン大工さんが年若い弟子をつれて2人で組みあげた。当時はプレカットは無かったので全て手作りである。
更につけ加えれば,建物は全て基礎が最も大切である。軟弱地盤の深川なので厚さ8寸(約26糎)のコンクリートに縦横30糎毎に鉄筋を入れ,交点は鉄線でしっかり結んでコンクリートを流しこんだ。そして高さ50糎の布基礎を床のコンクリートと一体化した。平面的にも立体的にも建物に歪みが生じていないのは,基礎工事をしっかりしたお陰でもある。
長々と自宅のことを述べたのは,使った用材は全て木場内の問屋さんから購入した,ムクの製材品で,人乾材ではない。恐らく現在の精密なプレカット機械では半分以上撥ねられるかも知れない。
現在の木造建築にはプレカットが必要である。もし,プレカットが無ければ,木造建築は激減するであろう。
しかし,国産の杉桧の需要が伸びない理由は,プレカット機械に問題が有るのではなかろうか。機械メーカーは機械の精密さを競い,少しの曲りも反りも見逃さないようである。
しかし,木材はプラスチックの成形品ではない。樹木は1本1本生れも育ちも異なる。更に製材品は木の腹,背,両脇腹で密度が違う。人間に皆個性が有るように,木も1本1本個性が有る。また1本の柱でも乾期と雨期とでは数粍の伸縮がある。木材は乾期には湿気を放出し,雨期には湿気を吸収して湿度を調節して室内を快適にする優れた機能を持っている。木造住宅がコンクリート住宅より住んでいて健康的なのは,この木材の優れた性質に負うところが多い。最近,コンクリート住宅でも内装に木材を使う動きが広まりつつある。喜ばしいことで,可能な限り厚い板材を使い,塗装も吸湿性を損なわない塗料を使って頂きたい。(色々市販されている)
私の自宅で述べたように,木造住宅は3米の柱で2粍位,4米の角材で3粍位の反り,曲りは使っていて問題ないのである。(但しネジレ材は別)45年たっても,自宅はフラッシュドアの開閉がスムースである。
そこで,プレカット機械メーカーにお願いしたい。人乾材ではないムクの製材品で住宅建築は十分できるのであるから,ムクの人乾材でない角材,板材を問題なくプレカットできる機械を造って頂きたいのである。そうすれば国産杉桧の製材品需要が大幅に増え,国内林業も,製材業も活気を取り戻すことができるのではなかろうか。
以上,自宅建物に45年間,快適に住んでいる経験をふまえ,私見を述べた次第である。多数のご意見か反論を組合宛に送って頂ければ幸いである。
この度び,新木場駅前に組合の新木材会館が落成した。7階建て2000坪余,ほかに地下駐車場も備えた立派な建物で,大成建設が精根こめて建設した。特に内装に国産材をふんだんに使い,一般のビルとは全く異なる。先日NHKテレビで内装が放映されたが,その内装は国産材の素晴らしい展示場である。組合事務局の移転は7月下旬とのことであるが,是非内部を拝見したいと思っている。何はともあれ,木材業者の1人として喜ばしいことである。 |