東京木材問屋協同組合


文苑 随想

世論と違う経済観
-しかし私はこう考えている-

榎戸 勇


 私は政府,日銀の経済見通しの発表は常に眉にツバをつけながら見ている。政府発表は政治面からの修正が行なわれることが有り,日銀もその影響を受けやすいからである。但し,日銀発表は本文のあと,添え書きで本音を遠慮がちに述べていることがある。添え書きが日銀の良心なのであろう。
 金融機関,特に証券業界に属するエコノミストの発表は信じてはいけない。彼等は株式,投資信託,貸付信託等の売上げ拡大が使命なので,そのような発言をする。株が上ってくれば先行きに明るさが見えてきた,今が買い時であるというようなことを言い,株が下がれば,今が底値と思われるから投資のチャンスだと言う。彼等は会社のためになる発言をするわけである。彼等は長期的な経済見通しを持っていない。明日,一週間,長くても数週間位を頭に画いて動いているようだ。お客さんが売ったり買ったり頻繁にするように仕向け,会社へ手数料が沢山入ればよいのであろう。
 私は株の売買はこの数年全くしていない。6年程前,日経ダウ平均が9,000円台半ばから7,000円台前半に迄,僅か1ヶ月余の間に急落したことがあった。バブル崩壊で苦しんでいる我が国経済を見て,欧米のファンドマネーが日本売りをし,日本の株式の空売りを仕掛けたなと考え,私が見て絶対安全と思う日本を代表する会社の株を,手持預金の一部で購入した。ところが翌々日から空売り筋が買戻しに入ったため,日経平均は2ヶ月足らずのうちに9,500円台に戻ったので半分売り,残り半分は1年間程後に,更に高値で売却して,かなりの小遣いを稼いだ。年をとると小遣いを使うことが少ないので,まだ半分以上残っている。年に2回位次男夫妻の車で家内共々4人で2泊3日の温泉旅行,その時はお金を惜しげなく使うようにしている。
 1人で1室を使えるクラブツーリズムの団体旅行,3泊4日で往復の新幹線や在来線特急料金を含め,3泊を同じ温泉ホテルへ泊り,朝夕食つきで4〜5万円という旅行も年3〜4回は行ったが,昨年夏以来足が弱ったので行っていない。3泊4日ホテルの付近を散歩し,あとはロビーで読書と居眠り,この旅行3泊4日でかなり心も体も休まった。
 いずれにしても,小遣は余り要らない生活である。
 くだらないことを述べてきたが,さて本題に入るとしよう。
 現在の世界の経済・社会は長期的に見てどうなのであろうか。
 私は,混沌暗闇の中を彷徨っていると考えている。財務大臣クラスが集って会合しても,これと言った対策は仲々でてこない。世界経済が奈落の底に落ちるのを,取りあえず防ぐためのカンフル注射的対策だけである。現在の状況は青ざめて半死状態だった世界経済が,注射のお陰でうっすらと赤味がさしてきた状況で,もし注射が切れれば再び青ざめてしまう惧れがある。それは崖っぷちの細い道を一本の長い綱に皆がつながり持って,危ない足どりで歩いている姿である。もし主要国のうち一国が足をすべらして落ちれば,他の国々も引きずられて落ちてしまうかも知れない。各国は財政赤字が拡大しても注射をつづけざるを得ない。各国の合意はそこ迄である。
 一体,どうしたら良いのだろうか。各国共個人消費の回復を考えているが,失業率は高まっており,勤務している人々も給与,手当,賞与の合計は前年比でかなり減っている。個人消費の回復は景気の回復がなければ難しいので,個人消費に景気回復を頼ることは無理である。
 住宅建設は落ちこみ,衣料品や靴,カバン等々の身の回り品の売れ行きも激減している。人々が無駄なもの,取りあえず無くてもどうにかなる物,手持ちのもので間に合うものの購入を押さえて,節約生活に入っているのである。
 こういう時に個人消費の拡大を叫んでも犬の遠吠えである。為政者は犬の遠吠えはやめた方がよい。
 私は,個人消費の減少が悪いとは考えていない。この数十年,先進国の人々は限りある地球の資源を無駄使いし,地球環境を破壊してきた。その結果,異常気象が発生し,その被害はアフリカや東南アジア等の貧困国にも及んでいる。私達は加害者であり被害者でもあるが,貧困国の人々は全くの被害者である。私達はそのことをしっかりと心に刻んで生活をすべきであろう。私達は個人消費を抑え資源の無駄使いをやめるべきである。
 個人消費の拡大で経済を立て直そうとするのは間違いである。但し,資源節約のため個人で太陽光や風力を使う設備をすること,古い車を燃費の良いハイブリット車等に買替えることは賛成なので,余裕のある個人や家業経営の方々は前向きに検討して頂きたいと思う。企業も地球環境を守るための機器や設備のための投資は前向きに進めて欲しい。
 お金を個人も企業もこのようなことに使って頂きたいのである。しかし,このような投資は直接には生産コストの削減にはならないかも知れない。企業は国際競争力を高めるため,研究開発に注力する必要がある。世界に誇れる製品をつくり,世界を相手に輸出して頂きたい。それが出来ない企業は消えていくことになろう。また流通業も流通の合理化で流通経費の削減をせねばなるまい。それが出来ない企業は消えていくのである。いずれにせよ生き残りをかけて取組まねばならない時代である。
 そして,再び言う。先進国の人々は従来の生活を改め,限りある地球の資源を無駄に浪費してはいけないのである。
 この文章,一般の経済観とは180度異なるので,ご意見や反論が多多有ろうかと思う。組合宛にご意見,反論を頂ければ幸甚である。

H21.8.7記

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