東京木材問屋協同組合


文苑 随想


日本の文化 「日本刀」…Japanese Sword…

「♪一家に一本 日本刀 スカッーと爽やか日本刀♪」

其の71(金工・鍔)

愛三木材・名 倉 敬 世


 刀を語る上で,どうしても避けて通れ無い物の一つに鍔がご猿。鍔は世界中の刀剣にも形は様々ながら大体は付いおります。「鍔」とは刀の拵えの金具の一つで,刀で戦う場合に,刀を握る手の拳を防御するために,柄と刀身との間に嵌めてある物で,刀の中心が中央を貫通するので柄に嵌める為に普通は鍔の表裏に「切羽」と云う薄い金属を当てております。俗に,絶体絶命の時に「…切羽詰まる」,と言う表現を致しますが,その語源でございます。横文字では大変判り易く,Sword Guard(又はBmri)と云っております。

 発祥は古く古墳時代の出土刀にも嵌められており,その多くは倒卵形の幅の狭い金具を附けた物で,柄から僅かに食み出すので喰出鍔と呼ばれております。頭椎や圭頭・円頭の太刀に用いられた鍔は,倒卵形でも大型になり金銅や鉄製の中には柄頭と同様に銀象嵌を施した物も有り,これらの物には,6個・8個・14個,等の透し孔で飾った鍔もあります。

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古墳時代(5C〜7C) 。東京国立博物館蔵。
 1.奈良県天理市柳本 出土 2.長野県下伊那郡松川 出土 3.群馬県渋川市石原町 出土
金銅装圭頭大刀
蕨手刀

 上の圭頭の太刀と下の蕨手刀は共に上古刀ですが,原初の鍔の形体が良く判ります。

 鍔の語源は2〜3有って,(1)古くは都美波と云ったが,ツミハは抓刀で刀身を挟む物,又は刀身と柄に挟まれている物,と言う意味です。(2)止め刃,敵の刃を止めると云う意味,それが訛つてツバとなったとも云うが,刀盤の音読みがツバに変じた,と言う説もある。(3)糸を紡ぐ時の錘に輪のある物を,ツミハと云うが鍔はこれに形が似ているのでとの説。
 「日本書紀」では鐔の字をツミハと読ませているが,漢字では鐔と鍔の字が共にツバの字とされている,これは本来シン又はジンと発音し,剣鼻・小剣・剣輪・剣頭・研首,と云われている物で,日本的に申せば,太刀の甲金,打ち刀の頭金にあたる物であります, 鍔の文字は刀の刃の事でツバという意味は全く無く,中国の詩に「鍔辺,霜凛々」(呉均)「鍔上,芙蓉動ク」(李僑),と有るのも,全て刃を意味します。ところが我国では南北朝の頃からツバの意味に使われ始め,文安元年(1444)の「下学集」に鍔と同意義と書かれた為,それから多く使われる様に成ったとの事であります。

 奈良時代になると,下図の様な中国から伝来した唐太刀等を手本として,我国の皇族や公家が儀式の際に佩用する為に作られたのが飾剣であります。(刀身に刃は付いてません)。

七宝唐草文総金具鳳凰螺鈿鞘飾剣拵・(金銅魚子地毛彫七宝象嵌・堅木地螺鈿)・全長三尺二分

 さて,「鍔」はナンボこの世に有ったかと申しますと,少なくとも太刀から短刀迄の刀の数だけは有った訳で,実際は刀身一本に替え鞘が三振りと云う事から推測をしましても,鍔にも替え鍔が相当数有ったハズですので,1000万枚位は有ったのではないかと思います。
 因みに,刀は有史以来の刀工数と作刀年数を×けますと幕末で800万と云われています。その後,明治・大正・昭和,と戦争が続き損失が増大して,現存は300万位ではないかいな?。

 鍔は刀や脇差と違い小さい為,戦乱や火災での損傷も少なく比較的多く残っております。その為,何方様も骨董市やフリー・マーケットで良く目にされる事が有ると思いますので,参考に「古い順」に並べてみましょう。古いと申しても,平安・鎌倉はマズございません。

無銘 古金工
耳の美しい象嵌
菱紋筏透図鐔 無名 古刀匠
室町時代 鉄地丸形影透
糸巻唐花透図鐔
(古正阿弥)
  せいぜい,室町初期の応永時代(1400)位で,太刀金具師・刀匠・甲冑師,次は応仁の平安城・与四郎・美濃,文亀で後藤祐乗・明珍憲国・金山・続いて後藤宗乗・乗真・早乙女・尾張・京透し・古正阿弥,文禄(1592)で名人伏見金家・山吉兵・川口法安,慶長に入り,是より新刀。

徳川将軍家
葵型(太刀鐔)
有栖川宮家菊紋散し 本多家・立葵紋
 明珍信家,埋忠明寿,後藤光乗‐長乗‐栄乗‐顕乗‐即乗‐覚乗‐程乗‐廉乗‐悦乗。江戸期の名人では,林叉七,志水甚兵衛,平田道仁,吉岡重次,越前記内,西垣勘四郎,三代甚五,横谷宗眠,奈良利寿,吉岡印旛介,柳川直政,正阿弥傳兵衛,土屋安親,宗典,浜野政隋,一宮長常,岩本昆寛,菊岡光行,村上如竹,石黒政常,海野勝眠,平田春就,
大月光興,河野春明,田中清寿,後藤光美,船田一琴,荒木東明,後藤一乗,加納夏雄。
  以上の名人がキラ星の如く輩出し,その芸術性の高さに世界中から注目されています。
鶴丸 軍配 茶壷 雲板

鍔の型。
 かなり,バラエティーに富んでいて相当なスタイルがあります。以下は代表的な型です。
 倒卵型,葵型,丸型,長丸型,鶴丸型,縦丸型,変わり丸型,撫で角型,六角型,八角型,隅み切り角型,あおり型,変わりあおり型,木瓜型,隅入り木瓜型,横二つ木瓜型,坪型,変わり撫で型,六ツ木瓜型,八ッ木瓜型,十木瓜型,撫で十木瓜型,糸巻き木瓜型,扇型,お多福木瓜型,変わりお多福型,変わり五ッ木瓜型,菊花型,変わり花型,鈴型,桐型,軍配型,雲板型,変わり置台型,雪輪型,鈴型,髑髏型,梶葉型,すつぽん型,数珠型,板戸型,瓢箪型,将棋駒型,変わり型(三なすび),変わり型(蛸),変わり釣鐘型(道成寺),

デザイン・図柄。
 森羅万象なれど,龍(竜)虎や馬の様に十二支に出て来る動物の図柄が一番多いですかね。
 他に猿,兎,蛇,鷲,鷹,鶴,鷺,千鳥,時鳥,燕,鳳凰,蝙蝠,鶴亀,鯉,鯰,蛸,蟹,蝶,蜘蛛,百足,貝,虫,桜,桐,椿,松竹梅,秋草,四君子,葡萄,牡丹,古萩,紅葉,後は曽我兄弟や六歌仙の様な歴史的人物や妖怪変化と文字や和歌の書き付けも多い方です。

鯰図・宮本武蔵作 蛸の図

蛇に睨まれた蛙
蝦蟇仙人
 蛇に飲まれたゲロッパは仙人に助けられました。メデタシ〜目出度しで,次回は正月。
来年も宜敷くお願い申し上げます。

※ 参考資料
黒漆合口打刀(◎太刀 無銘 号 山鳥毛の拵)
 この太刀は上杉謙信の佩刀で彼の趣好により作られた太刀拵えで,鍔を使わずに短刀の様な合口形式となっていて大変に珍しいスタイルであります。(上杉景勝ご手選35口の内)。



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