東京木材問屋協同組合


文苑 随想


『歴史探訪』(48)

江戸川木材工業株式会社
常務取締役 清水 太郎

 文武天皇の御代,舎人であった稗田阿礼が口述し,太安万侶が編纂し,和銅五年,元明天皇に献上された日本最古の史書が古事記であります。
 これを繙いてみますと,『火遠理命』の項に海幸彦と山幸彦の物語があります。原文を読むと,理解するのに多大な時間を要しますので専ら,次田真幸氏(お茶の水女子大学名誉教授)による現代語訳を読み進んで参ります。
 火照命は海幸彦として海の魚を取り,火遠理命は山幸彦として山の獣を取っていました。二人は兄弟です。あるとき,弟山幸彦は兄海幸彦に「それぞれの猟具と漁具を交換して使ってみよう」と提案し,山幸彦は漁具を用いて魚を釣ったが一匹の魚も得られぬばかりか釣針を失ってしまいました。兄に釣針を返せと責められ,自分の刀を砕いて五百本の釣針を作って償おうとしましたが受けとってもらえず,泣き悲しんで海辺を眺めておりましたら,後に妻となる豊玉毘売の侍女がやって来て宮殿に招かれ,三年間夢のような生活に明けくれます。やがて兄へ釣針を返すことを思い出し悩んでおりますと,妻の父親綿津見神が赤い鯛の喉にささった釣針を見つけてくれました。山幸彦は見つけてもらった釣針を兄に返し,授けられた呪力で兄に立ち向かい,ついに兄火照命を服従させます。
 火遠理命が豊玉毘売と出会うときの情景の描写により,古事記の中で最も美しい物語りであると云われています。先日亡くなった平山郁夫氏が描いたら,さぞ幻想的な素晴らしい芸術作品が出来たことでありましょう。
 この物語の源流と思われる説話は,メラネシアのニューブリテン島に伝えられた女人島説話をはじめ,インドネシアや中国にも分布しているという。日本の代表的なお伽話「浦島太郎」が亀に乗って龍宮城で乙姫様に出逢うシーンもここから出ているのではないか。
 この物語が教えていることは,山と海は兄弟のように結ばれており,だからと云って,海と山が立場を代えては,それぞれの任務を果すことはできない,ということではないか。
 最近,北海道鮨魚組合の人達が林野庁に行き,緑の募金に寄付金を贈呈されました。
 山が豊かになれば,降った雨が腐葉土に浸透して地下水となり,川から海に注ぐと,豊富な植物プランクトンが発生して動物プランクトンがこれを食べて繁殖し,魚が集まって格好の漁場となります。
 先日,鳩山由紀夫氏が国連でCO2 25%削減の演説をされ,世界中の喝采を浴びました。
 京都議定書で取り決めた,1990年比,2012年で6%削減は達成出来ず,逆に6%増えていると云うのに,如何にして達成するのでしょうか。
 地球環境の汚染は今に始まったわけではなく,産業革命以来,燃料が鯨の油から,蒸気機関の発明により石炭となり,その後石油の採削で,所謂化石燃料の消費でここ数十年,大きく悪化して参りました。科学技術で解決するには遅過ぎるようですが,日本では江戸の省エネ時代を模範にするか,更に神話の時代を探訪することによって人類を滅亡から救う知恵を発見することが出来るのではないでしょうか。
 日本の領海である排他的経済水域,EEZ(Exclusive Economic Zone)(所謂二百海里)は447万平方粁米あり,国土の22倍あり世界で6番目の広さです。
 山に植林して循環型社会にするにも,国土の面積の66%を占める森林の85%が勾配25度以上という急峻な地形では,植林伐採,手入れにも多くの労力を要します。
 ここは,現代の海幸彦に登場してもらい,北海道と同じ面積(約5万平方粁米)の浅い海面に,若布,昆布等の海藻類を繁茂させれば,日本から排出されるCO2 等地球温暖化ガスをかなりの量吸収することが出来るという学説もあります。
 私は今,友人の地域振興コンサルタント立川康夫氏はじめ,専門家のレクチャーを受け研究しています。

 



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