東京木材問屋協同組合


文苑 随想


『歴史探訪』(54)

江戸川木材工業株式会社
常務取締役 清水 太郎

 先月、東京の新名所スカイツリーを見学する機会に恵まれました。開発、建設に関わる事業者の御好意で、2012年開業に先駆けて、建設途上の状態を見ることが出来ました。
 竣工すると634米の高さになりますが、当日の表示では390米で、それでも東京タワーを抜いて日本一であります。
 基礎は一辺の長さが約100米の正三角形で、その各辺から直径2.3米、厚さ10cmの鉄パイプが伸びて来て、300米の高さでほぼ円状となる構造です。五重塔と同じ原理で、心柱が立ち、これが揺れを吸収する仕組みになっています。
 平安時代に、京の都からはるばるやって来た旅人が、隅田川で見た鳥について船頭に尋ね、「都鳥です」と答えると、
 「名にし負はばいざこと問はむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと」と歌を詠んだ故事によって、後に架けられた橋を「言問橋」、この地域を旅人の名に因んで「業平町」と命名されました。伊勢物語の作者、在原業平は、1000年後自分の足跡に日本一のタワーが建つとは考えても見なかったことでしょう。
 スカイツリーのモデルは1960年頃建てられた東京タワーではないでしょうか。
 その頃私は工学部の学生で、タワー建設現場の近く、芝にある先輩が経営する会社で、橋の設計のアルバイトをしておりました。
 私は字や絵が下手なので、専ら構造計算を担当していました。当時は未だ電子計算機は普及しておらず、手廻し計算機を使っていました。掛け算はハンドルを時計方向に廻し、割り算は逆に廻して、「チーン」と音がすると元に一回廻して桁をずらします。仕事の内容は全然覚えておりませんが、約半月働いて頂いた給料でテントを買いに行き、共に働いていた友人と翌日八丈島へ出掛けたことは今でも鮮明に記憶しています。
 数年前、鬼怒川温泉駅の近くに、古今東西の有名な建物が25分の1のスケールで展示している東武ワールドスクウェアがオープンし、ここでスカイツリーが一足先に完成したことを知り、連休の日に見に行きました。
 スカイツリーは25分の1でも26米あり、ビルの8階の高さです。他に国内では、東京タワー、国会議事堂、唐招提寺、金閣寺、銀閣寺、熊本城、姫路城、厳島神社、海外では、ピラミッド、万里の長城、ウエストミンスター寺院、ヴェルサイユ宮殿、バッキンガム宮殿、エンパイア・ステート・ビルディング等。
 東京タワーはパリのエッフェル塔がモデルではないかと思いました。エッフェル塔はパリ万国博覧会開催に合わせて建設されたそうですが、東京タワーは同じ位の高さでも使用鉄骨の重量がエッフェル塔の2分の1まで軽減されたそうです。
 今回はワールドスクウェアで歴史探訪をします。ナポレオンが遠征して大勝利をおさめて帰って来た功を称えて凱旋門が建てられました。何万という兵士を率いてエジプトまで行ったとき、「兵士諸君、ピラミッドの頂から、4000年の歴史が諸君を見つめている」。という名演説で、フランスから1万粁以上の大遠征の後で、兵士達の志気は大いに高揚したことでしょう。
 イタリアのピサで建てたビルは軟弱地盤で少しずつ傾き始め、まっすぐ建っていれば有名にならなかったのです。これは歴史の皮肉としか云い様がありません。このビルで、ある科学者が上から重い物と軽い物を落下させ、要する時間が同じであることを証明しました。
 今、日本経済は低迷、政治も不信で揺れていますが、救世主を期待して坂本龍馬が大人気。そんな時節に、イタリアに渡って長年ローマ史を研究している塩野七生氏は、『ローマ人の物語』という本を出版して、10万部のベストセラーを記録しました。クレオパトラが活躍した頃でもピラミッドやスフィンクスが出来て2000年経っておりました。塩野氏は学生時代、歴史の授業で、ある教授が「ローマ帝国はギリシャの模倣である」という話に異議を唱え、「それでは元祖のギリシャが700年で滅んだのに対し、何故模倣したローマは2000年も続いたのか」と質問したが、納得出来ないと、イタリアへ渡って以来30年以上研究を続けておられるそうです。私が毎月購読している『文芸春秋』に辛口の提言をされ、これには私も頭から冷水をかけられたような思いをすることがあります。例えば、日本が米国の核の傘の下で安住していることに業を煮やし「自国を守る気概を持たない国は誰も助けて呉れません」。これもローマの繁栄と衰退を現地で検証した人ならではのコメントでありましょう。
 ワールドスクウェアには他に素晴らしい建物や建造物があり、是非、残りの生涯で行って見たいものばかりです。もう200年以上も建設中でまだ完成していないガウディのゴシック建築は世界中から人が集まり話題を提供しています。
 しかし、国内でもこれから注目される建物が出現するのではないかと期待されます。
 身近なところでは、木材会館が昨年完成しました。都市における木材の復権を目指し、これからの木材の使われ方に大きな風穴を開けたということで、英国の建築の専門図書で絶賛されており、我々木材関係者として大いに誇りにするべきであります。又先月号で青木行雄様が推奨されている「江戸城再建」は業界をあげて実現に向けて邁進しては如何でしょうか。

 



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