東京木材問屋協同組合


文苑 随想


日本の文化 「日本刀」…Japanese Sword…

「♪一家に一本 日本刀 スカッーと爽やか日本刀♪」

其の91 「金工&残暑見舞」

愛三木材(株)・名 倉 敬 世

 昔は暑い寒いも彼岸迄、との判り易い格言が御座いましたが、最近は気候もサプライズ続きで、変ロ長調となっておりますので、皆様にはご油断召されませぬよう願い上げます。

 又、日本には神代の昔より、「お造酒あがらぬ神は無い」と云われる如く、Godとお酒は一対でご猿。そして、この豊葦原の瑞穂国に於ける暑気払いには「お笑いの図」がGood、最適と云うのが古来より定説になっておりますが、されば「お笑いの図」とは何んだべ〜と申せば、今や世界的にチョ〜有名な日本の名物、世界に冠たる美術品の「浮世絵」でご猿。
 我国が世界に誇る『源氏物語』を始めとする女流の「王朝文学」もグ〜ですが男共には少々肩が凝りますので、それを解(ほぐ)すには当時の「黄表紙」か幕末に大八車一台でナンボでも売られていた浮世絵が最適かと存じましたが、その流れで洒落者の武家が常に身に付けておりました、鍔や小柄や目貫等の小道具をチヨィト暑気払いにご披露を致して見ましょう。

後藤程乗の小柄(後藤光美極め)

 「お笑い小道具」とはズバリ、SEX関係の事ですが、武士の魂にセックスの道具を附ける、〜てな事は有り得ない様に思えますが、お造酒あがらぬ神は無い、と同じで日本全国には男女のマグワイ関係を祭神にしている神社はゴマンとご猿。又、武士も戦いに赴く時には鎧(よろい)櫃(びつ)の中に春画を入れて置くのが慣わしであった様でして、「甲子夜話」に江戸城中での年始・年末には春画の贈答が行われていたとの記述もあり、幕末の七賢人の一人である、福井藩主の松平春獄(しゅんごく)は当時の浮世絵師の第一人者である、歌川国貞に命じ「吾妻源氏」と云う豪華な春本を作らせている。この様な事から推測すると当時はSexにはかなり寛大で鍔等の小道具の図柄に使われたとしても何ら不思議ではござらん。
 但し、元禄(1688)以降〜幕末迄に黄表紙や浮世絵は松平定信の寛政の改革(1787)の如く、何回も禁令が出されていますが、効果はサッパリでむしろ幕末から明治に一段とブ〜ムになります。これは幕府の終焉と明治三年のパリ万博での日本文化の評価が高かった為?。

 「お笑い小道具」の古い物は全て後藤家風の作品で、桃山期の徳乗やその子供の顕乗の作品と見える物も有り図柄は全て烏帽子(えぼし)を着けた公卿と、十二単衣の女房とのマグワイの図で、七々子地(ななこぢ)に高彫りで金色絵という「源氏物語」調のものであり、秘所は笄や小柄で巧みに隠されていて露骨には見せませんが、その表情や手足の動きはかなりリアルでご猿。

石黒政広の目貫(天保寅 抱完)

 それが幕末になると、一層大胆になって、秘所も入念に彫られる様になってくる。その代表作は石黒政広の揃い金具で、小柄に「前政弘鶴寿斎」と銘がある。画題は好色本での最高傑作と云われる、国貞の「吾妻源氏」から採ったもので、金銀・赤(しゃく)銅(どう)・四分(し ぶ)一(いち)・色(いろ)金(かね)をふんだに使った極彩色のものである。おそらくは松平春獄の注文で彫ったものであろう。
 堀田子爵家にもこの手の揃い金具が有り、これは今井永武の作で柄頭に銀のキャップが被せてあり、それを外して見る様になっており、鍔にも片切り彫りで描かれていた。

佐藤義照の鐔(東吟亭 義照 花押。義照は荒木東明・後藤東乗の門人、
孝明天皇ご下命の太刀の彫刻を奉仕)

 尚、鍔には大変に希ではあるが、佐藤義照に大小揃いの鍔がある。秘所は で隠す様に考案されているが義照は宮中より下命される程の一流の金工なので、この手の作は珍しい。
 大体が無銘であるが、時代が下ると「表・程乗光美(花押)」と在銘を見る様になってくる。幕末の名人後藤一乗の作に間違い無い物に、「応需常行彫之」と在銘の小柄がある、これは「需(もとめ)ニ応ジ常ニ行イ之ヲ彫ル」と読む、と云われている。
 明治に入ると、浜物(横浜より海外へ輸出される物)として、外国へ向けた物が多くなるが、それらは大抵、小柄や笄と言っても手の掛からない物で簡単な毛彫り程度の品物であった。

 考えて見れば「お笑いの図」は、長い戦国の世が終り、町人が武士に取って代わって天下を取った、元禄文化に咲いた「仇(あだ)花(ばな)」と言える美術品で文化財なのではないだろうか。
 これだけの美術品が日陰に埋れているのは実に勿体い無い、日本の宝の持ち腐れでご猿。日本に於ける文物は100年経てば全ての物が文化財なのでご猿。人間様もそうであろう。
 その面妖な人類と「お笑いの図」の名品が国立博物館の日本観に並ぶ事を願ってやまない。

無銘・正阿弥 唐松透しに「ご猿の図」
縦78mm横 77.7mm 厚さ4.6mm鉄地素銅象嵌。

 今回のテーマを唐松の上で遊ぶ、ご猿達が興味深く見守っております。左下には竹馬に股がった猿も居てユニークな構成になってます。猿の顔は素銅象嵌、全身に毛彫りを施す。


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