【エアコンよ、さらば・・・】 季節は初夏になった。例年であれば、「さあ、エアコンの季節到来」が定番だった。今迄、電気は「好きな時に、好きなだけ」使えた。しかし、大震災(3月11日)以降は、福島第一原発の事故で世の電力事情が一変し「節電」、「省エネ」ムード一色だ。会社・公共機関・学校等至る所で節電態勢に入った。新たな環境へ適応するための試練の時と解釈するしかない。3月頃は計画停電もあったが、4月以降は何とか回避している。
当社の事務所でも4月は世間並みに、前年同期比約20%の削減ができた。経済産業省が、5月30日、夏場の電力需給問題への対策として、前年比15%の節電を達成した節電上手な家庭には景品を出すという。世の中の景気や復興が心配だが、冷房の苦手な私としては今年の夏は複雑な思いです。
大震災後は「脱原発」が連日話題となり、遅ればせながら少し勉強し始めた訳です。実は私は、少し珍しい職業経験をもっている。それは、林業、製材、木材チップ、古材チップ、古紙、製紙、段ボール、リサイクル等です。地味な業界でしたが、地球環境の中で自然エネルギーを利用した「木材」、「林業」の恩恵を改めて実感した。「木材」への多面的な認識が広まることは大変嬉しい。
●自然エネルギーの賦存量●
天然の核融合体である太陽から地球に、膨大なエネルギーが降り注いでいる。地球に到達した太陽エネルギーは、風力や波力等に姿を変える。 |
|
|
『日経BP社』
【浜岡原発停止で国策の見直しが・・・】 5月6日、菅直人総理が中部電力に対し、静岡県の浜岡原発の件で「停止要請」をした。理由は、30年以内にM8程度の大地震の発生する可能性が87%と高く、安全を優先する措置の為という。その結果、5月15日に停止となった。中部電力も電力不足の事態を招来し、東京電力へ融通していた電力を削減した。 そこで、2030年までに、原子力への依存率を50%へ増加させようとしていた国のエネルギー政策を一旦白紙に戻し、抜本的な見直しが不可避となってきた。テレビや新聞等のマスコミも、代替の「新エネルギー問題」を連日取り上げ、俄かに木材や農林業が話題に上ってきた。5月26日〜27日 フランス(ドーヴィル)で開催のG8サミットでも原発が主題となった。
【有望なバイオマス発電とは】 代替エネルギーは、太陽光、風力、バイオマス、地熱、水力(揚水)等だ。その中でバイオマスの知名度は低いが、安定的で有望と感じた。私はこの機会に、「バイオマス発電」を調べてみた。では、バイオマスって何?種類は?
・再生可能な、生物由来の有機性資源で化石燃料を除いたもの
・太陽エネルギーを使って生物が合成したものであり、生命と太陽がある限り、 枯渇しない資源(再生可能なもの)
◆産業廃棄物系バイオマス
家畜排せつ物、食品廃棄物、下水汚泥、製材工場残材、建築廃材
◆未利用バイオマス
稲わら、もみ殻、麦わら、間伐材、林地残材
◆資源作物
・糖質資源(さとうきび、てんさい等) ・油脂資源(なたね、大豆等)
・でんぷん資源(米、とうもろこし等)
表1 EUの自然エネルギー利用行動計画の評価
(参照:坂井正康『バイオマスが拓く21世紀エネルギー』) |
|
太陽電池発電 |
風力発電 |
バイオマス発電 |
投資額(円) |
2100億 |
1兆4600億 |
7300億 |
設備規模(kW) |
100万(推定) |
1000万 |
1000万 |
年間稼働率(%) |
12 |
20 |
70 |
年間電力(kWh) |
11億 |
175億 |
613億 |
投資単価(円/kW) |
190.9 |
83.4 |
11.9 |
【欧州では自然エネルギーに、未来を大きく期待】 欧州では総じて、文化や考え方の違いの為か非常に進んでいる。ドイツやデンマークでは、既に15%以上を供給する主力のエネルギー源となっている事を知り驚きと同時に、興味深い内容で思わず引き込まれた。しかし、日本でのバイオマス発電は、電力消費の1%にすぎず大きく立ち遅れている。
現在、フランスを除く欧州では2050年迄に、ほぼすべてのエネルギーを再生可能エネルギーでカバーし、「原子力も地球温暖化もない未来」を作ろうとの意欲的な戦略提案が相次いでいる。原発と火力に依存する日本のエネルギー政策の抜本的な見直しが不可避となる中で、日本でも野心的な長期戦略作りを求める声が高まっている。又、ドイツでは、5月30日、有識者による政府の倫理委員会が、2022年までに原発を全面停止する方針を決めた。ドイツの産業界は反発しているが、壮大な挑戦で脱原発の見切り発車とも言える。欧州でも、「脱原発」と「原発依存」とを巡り世論が割れている。
ところで、以前の私はドイツや北欧等の理想主義的な手法を冷ややかに見ていた。裏返せば、国のやる事だから小市民が騒いでもどうにもならないという諦めがあった。だが、原発事故以降は考えが変わった。新たな角度から徹底的な分析と迅速な決断が必要では? 成長著しい中国では電力不足が深刻で、原子力のみならずバイオマス発電も急拡大しているようだ。特に、原発事故以降は、世界的な潮流が大きく変わり始めた。
木材バイオマス発電の模式図
|
【日本での新エネルギー予測と期待】 環境エネルギー政策研究所によると、日本でも2050年に、100%の実現が可能と試算している。又、2004年に10兆円だった日本の化石燃料の輸入額は、2010年には23兆円までになった。自前の再生可能エネルギーの拡大でこの出費を減らせるのだから、日本は早い時期に投資を回収できるとしている。
壮大且つ遠大な構想だが、欧州の長期計画をみると、日本でも実現が全く不可能ではなく、限りなく目標に近づく事が可能と思う。話を聞いただけでも、暗く騒然とした世相の中で気持ちが少しほっと安心する。又、新エネルギー財団等の資料でも、非常に具体性と説得力があり、私は期待をかけている。世の中は、太陽熱や風力に傾いているが、初期投資や稼働効率の面で課題は少なくない。
【被災地から新たな動きが・・・】 東日本大震災を機に、木材チップ等を燃料とした、「木質バイオマス発電事業」が復権の兆しが出てきた。 被災地では家屋等の瓦礫処理が話題となり、この廃材をチップに加工し燃料に活用しようという動きが活発化している。特に、東北地方に発電施設を持つ企業は受け入れ態勢の検討開始した。又、発電以外でもリサイクルボード(合板)に加工し、それを被災地の仮設住宅用に利用する動きがでている。(4月上旬、テレビ放映)約2,500万トンもの瓦礫の中で、約70%が木材との事で、その内僅かでも再利用されるのは喜ばしいことだ。
大震災に伴い林野庁が、瓦礫処理促進の為に木材破砕機の導入を補助する等、国も改めて推進体制に転換、事業者には追い風が吹き始めた。津波被害を受け塩分を含んだ廃材を利用するには、若干の技術的な課題もある。震災による一時的な需要に留まらず、山林からの搬出費用等の面で政府からの補助金があれば、蓄積量的には十分可能だ。
【全国のバイオマス発電所の実態】 バイオマス発電所は、全国に約100ヶ所あり、民間企業が運営している。数年前、自然エネルギーの活用ブームに乗り、太陽光発電等と共に脚光を浴びた。しかし、木材チップが高価で安定的な調達が難しい等の理由から普及せずに、今年、2月に総務省がまとめた「バイオマスの利活用に関する政策評価書」によると、バイオマス関連施設の約7割が赤字と報告され、経営的に成り立ちにくいのが現状だ。原発事故による無限大の危険とコストを熟慮し、若干の補助金を出す体制ができれば、稼働は具体的且つ現実的となる。設備や技術は困難とは思えない。
福島県白河市内の某バイオマス発電施設(発電能力11,500kW)も被災したが、現在は、ほぼフル稼働の状態へ復帰した。今後は、津波の瓦礫内の材木を受け入れる計画を拡大している。見栄えがアカデミックではない為、少々物足りない分野かもしれないが、実をとれば日本の将来を託すに相応しい主要な自然エネルギーの一つだと思う。
■日本では成長した森林を生かすべき時代:森林林業学習館■
データ出所:『平成21年度森林・林業白書』
【もみがら発電所って何?】 「もみがら発電」も立派なバイオマスだ。これは、タイ、ベトナム、インド等で先行している。タイでは年間で約600万トンの籾殻が発生し、潜在的な発電能力は486MWである。ベトナムでは、年間で約800万トンの籾殻が発生する。その内、150万トンが籾殻発電に利用されており、12億kWh(発電効率20%)が利用されている。又、インドでは籾殻発電導入が活発化しており、現在、60基のプラントが稼働している。1つの発電設備で年間42kLの灯油と18kLのディーゼルが節約できる。
これらの燃料は発電の為に使用していたが、籾殻発電により今迄の半分のコストで電気が購入できるという。発電設備の増設が決定し、2014年までに、2,014基とする計画だという。これにより、新たな1万人の雇用を生み、72,000トンのCO2排出が削減され、100万世帯へ供給される。21世紀後半の経済大国、「インド」が選択した為説得力がある。
(籾殻の写真) |
尚、籾殻は完全燃焼すると、その灰の成分はSiO2成分が95%以上でK2Oが1〜2.5%含まれ、不純物は極めて少ない。籾殻灰は籾殻の細胞構造をそのままSiO2質骨格として残すので、多孔質かつ大きい表面積を有する。しかも、燃焼条件を制御することで籾殻灰の結晶化度と結晶相を制御できる。低温下または短時間の燃焼では非晶質シリカになるが、高温下、長時間燃焼ではクリストバライト、次いでトリジマイトに結晶化していく。商品価値の高い籾殻灰を副生させると、籾殻発電事業の採算性を大きく好転する。
(出典:『(財)新エネルギー財団』)
|
|
日本では年間200万トン以上の籾殻が発生するが、殆ど有効利用されず農業廃棄物として処理に手を焼いている。一部は、インテリア商品として「もみがらエコボード」等で活用され、環境に優しい自然素材として脚光を浴びている。米を食べないドイツ人が、インドネシアで「もみがら」を原料に木材と同様な機能を持つ、「エコ材」を開発し家具や床材向けに販売している。今や、自然エネルギーへの世界的・歴史的な転換期を迎えている。
【まとめ】 バイオマスは電力供給の一翼を担う事のできる自然エネルギーとして、大きな可能性を持つ。環境への悪影響が他の発電方式と比べて格段に少ないという大きな利点を持ち、風力発電や太陽電池発電と異なり天候に左右されず高い稼働率を実現でき、更に少ない初期投資費用で運用が可能だ。又、日本はバイオマス先進国と比較しても遜色の無い「森林資源(約50億?)」を保有する。実際の木材活用度は、北欧に比べ約3分の1であり、残材の一部でも利用できれば、普及実現は十分可能であろう。
但し、普及に関しては、バイオマス先進国同様、税制の整備や研究費の投入が不可欠だ。日本は戦後半世紀に亘るエネルギー政策として、原子力発電を選択した。しかし、3月11日をもって原発神話が崩壊し、脱原子力への急転換を余儀なくされている。5月15日現在、全国54基の原発中で、3分の2の原発が休止状態だ。肝心の福島第一原発は懸命な現場作業にかかわらず、依然深刻な状態である。私は、「木質バイオマス発電」と「もみがら発電」に期待をかけている。
【追伸】 6月4日(土)都内某ホテルでの同窓会に参加した。村上哲昭氏(スミリンビジネスサービス(株)社長・住友林業(株))を筆頭に、食と環境の専門家である酒井仙吉氏(東京大学大学院教授)(最近の著書は、『どうなる?どうする?日本の食卓』)他大勢が会した。そこで、生態学(エコロジー)の権威である金子与止男氏(岩手県立大学教授で、元ワシントン条約事務局部長)から「マグロは絶滅するのか、『トロ信仰』もう卒業しよう」の講演を聞いた。世界の関心が陸から海へ移行している最新事情は、大変に興味深く有益であった。金子氏は学生時代から優秀だったので私とは別な世界で活躍している。又、金井(※)誠氏(伊藤忠建材(株)取締役)も同席した。後者の両名は私の同級生で、30数年振りの再会であり旧交を温めた。我々は、「木材」を学んだ仲間である。今後もこうした機会に「木材」の縁を大切にして行きたい。(※同氏は、6月17日付 常務取締役昇格となる)
|