東京木材問屋協同組合


文苑 随想

材木屋とエコ 環境 省エネ(第6回)

縄文杉に学ぶ 東日本復興計画 私案

(株)コバリン 奥澤 康文


 当本社事務所の節電状況は対前年同月比6月▲28%、7月▲25%。自宅は6月▲27%、7月▲33%。「家庭の節電宣言」(経産省)に申し込み、節電を楽しんでいる。
■私の選んだ最近の資源・エネルギーニュース(*印は:『日本経済新聞』)■
 1) 太平洋の海底にレアアース含有「夢の泥」発見。(*:7月4日)
 総埋蔵量は、陸上の800倍と推定。高濃度で品質良い。
 2) 秋田の温泉からレアアース採取。(*:7月21日)
 微量だが、海底に眠るレアアース分離技術に転用可能。
 3) 来年度、日本近海のメタンハイドレード採取へ試掘(*:7月25日)
 日本近海だけで100年分存在の試算有。但し、採取は埋蔵量の2〜3割。
 4) 自然素材の断熱材「もみがらエコボード」の京浜東北線、中央線、JR西日本で放映
 (7月25日〜7月31日:パナソニック暮らしのエコナビ)
 5) 高知・榛名町2050年までにエネルギー自給率100%へ(7月26日:『日刊木材新聞』)
 現在は消費電力の28%が再生エネルギー。小さな町だが注目の的。

 以下の提言は、大震災(3月11日)直後の恐怖と不安の中、復興への思いを単純・素朴な願望のまま記述しておいたが、今回、その原文を半分に要約しました。

1)【農業・環境・省エネランド建設】 「江戸時代の地産地消のリサイクル社会」をヒントにした、テーマパークを建設してみたらどうか。所謂、浦安のディズニーランドの「農業・環境・省エネ版」である。世界に先駆け建設し、東北を日本の食糧基地として盤石な基礎作りをする必要がある。東北の各県に建設し、活性化と復興の目玉とする。幅広い企業に参加を呼掛け、より良いものを実現する。全国から特徴ある「B級グルメ館」等も盛大に出店してもらう。トヨタも東北に力を投入との事。
 因みに、江戸末期の人口は約3千万人だったが、現在は1億3千万人弱で、百年後には現在の半分(約6千万人)になると推計されている。急減はしない為、国内消費の拡大と食料の自給率を高める事で当面は乗り切れる。生産人口の減少が進展し輸出が減少する分は、国内消費を活性化し乗り切るしか方策はない。この間、事態の早急な立て直しを図り、「持続的な循環型社会」の建設を急ぐべきだ。しかし、輸出が減少しても、過度の心配は無用だ。循環型社会が実現すれば、原油や食料等の輸入は自ずと減少する。その意味で、今回の大震災は大変に悲しく辛いことだが、ジリ貧になりかけていた日本に、新たな技術革新や産業誕生の千載一遇のチャンスと前向きに捉えるべきだ。

2)【昭和30年代の住宅生活館を設立】 宇宙から見た深夜の日本列島は、眩しい程明るい。節約しすぎても経済が萎縮してしまうが、日常生活での無駄や過剰なサービスは、思い切って削減すべきだ。そこで、「昭和30年代の生活環境の体験ゾーン」を建設する。少し不便さはあるが、時には、原点に戻って考えてみることも必要ではないだろうか。テレビ、冷蔵庫、洗濯機、水道、エアコンのない生活がどんなものであったか。現在では既に失われたものが、そこには存在するような気がする。そんな、ほんのりと温かみのある生活があった時代空間。僅か半世紀前の日本の姿がそこにはある。少しだけ、タイムスリップしてみたらどうか。豊かさや快適さを追求した故に、切り捨ててきた貧しさや人情であった。しかし、今となれば郷愁の漂う安らぎの原点として、人間同士の「絆」を確認し合える場所となり得る。

3)【食料の自給率を向上させる】
  農業:食料の自給率を向上させる為、早急な対策が必要だ。この機会に、日本の農業を抜本的に見直す。被災者の雇用の促進から見れば、農村ではどこでも人手不足であり、短期的に、その農家で働いてもらってはどうだろうか。津波で海水を被った農地を復元するには、時間とコストがかかる。50年前は、米を一人当たり年間で約2俵(120kg)消費していたが、今では、半分以下である。輸出して稼いだ外貨で安い穀物や食料を潤沢に輸入してきたが、既にその時代は終焉した。食料の国内自給率が先進国中では最下位(40%)であり、不安定さとリスクは拭えない。その為、先ずは主食である米の多角的な利用法を確立し、消費量を増加させる。
 林業:近年、「公共建物等の木質化」が目覚ましい展開を見せている。江東区新木場駅前に、木材の良さを斬新にデザインした壮麗な「木材会館」が出現し内外から注目を集めている。衰退する日本の林業を再建するにも良い機会ではないか。半世紀前は、里山を中心とした循環型社会が機能していた。森林は人間の原点であり、これが荒廃して行けば、人間の生活もやがては崩壊の一途を辿る事が必定である。灯油や電気の消費を減らす為に、里山の薪や自然の恵みを有効活用する事も大切で、これ以上荒廃させてはならない。
  漁業:三陸沖は、世界三大漁場の一つであり、貴重な食料資源地帯だ。何万艘もの漁船が流され、港湾も壊滅的な被害を受けた。今回の震災で最大の被害者は漁業と農業だ。船の確保や港湾整備も容易ではないだろうが、一日も早い復旧が望まれる。全国の漁村から、漁師の「絆」による相次ぐ漁船提供のニュースには心温まる。又、年々減少する漁獲量に歯止めをかける為、バイオを利用した養殖技術を安定的に構築して行く事も重要だ。さて、日本は小さい島国だが経済水域は世界第6位の広さを有する「海洋国家」で、国境線を含めこれを大切にする事だ。現在は無人島となっている沖ノ鳥島と南鳥島に海洋基地を設け、地震の観測と海洋資源探査を行う。日本国内だけに目を向けていると、貴重な海洋資源を失う恐れがある。

4)【福島県に原発放射能研究センターを設立】 各大学等で研究中の原子力分野を一箇所に集約し、そこで、放射線と人体や動植物との関係、環境に与える影響等を徹底的に研究する。当然、放射性物質を除染する技術の研究開発も必要だ。汚染された土壌を再生する為、高度な農業技術が求められる。チェルノブイリでは、「ヒマワリ」や「菜の花」が再生に一役買っている。日本の国土は狭いが、植物や微生物の種類が非常に豊富であり、適切なものを見つけて欲しい。原発には捨てがたい魅力と、反面、危険な魔力がある。それ故、脱原発を目指すドイツと同様に、新たな目標と研究開発が必要だ。


5)【木質バイオマス発電の推進】

原子力が安全で、安価であるという神話が崩壊した事で全世界が震撼した。人類全体に対する警鐘であり、代替エネルギーの開発が急務だ。バイオマス以外では、太陽熱、水力(揚水)、風力、地熱、シェールガス、メタンハイドレード等だ。世間では木質バイオマスへの関心度は低いが、自然素材の断熱材と木質バイオマスとの連携で大きな省エネも可能と思う。荒廃しつつある農村、山村の活性化にも有効となる。見た目がきれいなハイテクの自然エネルギーだけが全てではない。ローテクだが、木質バイオマスを始め、よしず、すだれ、打ち水、ゴーヤ等生活の知恵や工夫次第でいくらでもある。

6)【もみがら発電所の建設】 既に、タイ、インド、ベトナム等で実用化されている。日本では余り知名度は高くないが、バイオを利用した発電方法である。安全性も高く、技術的にも無理がない。日本でも小型籾殻ボイラーは使用されている。日本では稲の籾殻が、年間200?300万トン安定的に発生する。是非、検討対象に入れて欲しい。CO2の削減効果も期待でき、日本の技術力があれば、この位は朝飯前にできるはずだ。問題は見栄えや廃棄物の処理方法だが、原子力に比較すれば難しくはない。東南アジアでの籾殻発電は、ドイツが先陣を切っているという。米を主食としないドイツが、環境と省エネ技術で成功している好例である。発電量は小さいが、地域おこしには目玉になり得る。

7)【ユビキタス資源と都市鉱山の活用】 「ユビキタス資源」とは、日常の環境の中で大量に存在している、砂、木、セメント等であり、半導体や電子材料を作る事が可能で、レアメタルの代替になるものだ。又、所謂、「都市鉱山」と話題を呼んでいる物も可能な限り早急に発掘した方が良い。日本には資源がないと言われているが、科学技術の粋を結集して行けば多面的に利用できる。

8)【ドイツに学び、環境・省エネ技術で世界一を目指す】 日本も10年以上前は、確固たる地歩があったが、現在では大きく揺らいでいる。原点に戻っての再構築と政府の優遇措置が必要で、ドイツ式を学ぶ事も重要だ。ドイツも遡れば日本と同じような敗戦と復興の道を歩んできた経緯がある。戦後の日本経済は自動車産業が支えてきたと言っても過言ではないが、今回の震災でその優位性が脅かされている事が現実となり愕然とした。従って、今後は蓄積した科学技術の基盤の上に、環境・省エネ技術を更に発展させ、製品やノウハウを輸出して行く必要がある。ドイツの如く自国では稲作をしていないが、籾殻発電の技術や籾殻を利用した断熱材の開発に先んじている国を模範とすべきだ。

9)【高速バス・新幹線・飛行機で東北へ】 少し慌しいが日帰りや一泊でも東北へ避暑や旅行する機会を増やすことで地域経済も活性化する。その結果、東日本の需要が喚起され、夏場の関東圏や関西圏での電力需要が幾分でも軽減できる。国内旅行で日本の良さを、改めて再認識する好機となる。世界に誇るべき貴重な自然、文化財、観光名所、温泉等が多く、10年や20年ではとても回りきれない。

10)【使用電力の平準化を推進する】 今後は、「電力消費の平準化」がキーポイントだ。即ち、一日の中で昼夜の差、春秋の減少と夏場の極端な増加を分散できないか。エアコンの消費電力削減が最大のターゲットになる。深夜電力を利用した蓄電池も急開発されており、今後は有力な節電手段となるだろう。家庭や企業で知恵を絞り、電力消費の平準化ができれば、日本全体では年間に相当な省エネが達成できる。日本全体で10%節電できれば、年間約2兆円の節減となる試算もある。原発関連を除外した復興費用が20兆円であれば、皆で10年頑張ればその分が出てくるではないか。家庭や企業のベクトルが集約できれば、世界的に注目される「平準化のモデルケース」となる可能性が期待できる。恒常的な電力不足は、世界的にも喫緊の大きな課題だ。

11)【緑のサムライと緑のナデシコになる】


最後に、私が強調したいのは、太陽の恵みである木材等の自然エネルギーを積極的に有効活用し、環境・省エネ技術を新たな成長分野として開拓して行く事です。21世紀の希望の産業として、日本を支える事は決して夢ではないと思う。 
又、三菱総研理事長の小宮山宏氏の論説(8月2日付 『産経新聞』)によれば、「2050年に日本のエネルギー消費量を45%にし、現在16%程の国産エネルギーを倍にすれば、エネルギー自給率は70%になる」要するに、「自給率が70%に到達すれば、いざとなったら多少の我慢で過ごせるはずだ。幸い日本は水資源に恵まれており、水と食料と木材と鉱物とエネルギーが物質的な基盤であるから、日本は強い国になれる」と結んであった。私の復興への稚拙な表現が裏付けられた様で、大変に興味深く勉強になった。
2011年8月8日(月) 記

前のページに戻る

Copyright (C) Tokyo Mokuzai Tonya Kyoudou Kumiai 2011