東京木材問屋協同組合


文苑 随想


あきらめなかったから出来たこと、その先へ

三幸林産株式会社
代表取締役 馬田 勝之

材木屋に未来はあるのか?
 入社して2?3年は、まだ材木屋経営なんて何も想像出来ていなかった。
 かつては多くのものに木材は活用されていた。住宅、学校、社寺、家具、船、梱包、土木など幅広く使われてきており、新木場にも専門問屋が軒を連ねていた。
 しかし、ムクの木材に代わる合板や集成材等の木質材という同等品が市場を占めるようになった。木に対してこだわりがなくなってきた頃、時代はまだ量を追求して売上を競っていた。当然のように、各社とも専門以外の売れるものを扱う形態になっていった。しかしそれは、どこの問屋も一緒になり価格競争を招き疲弊するだけだった。
 大きな流れとしては、大手ホームセンターが各地で増え工務店は早朝から夜遅く土日まで仕入れが可能になった。木造住宅はプレカット工場主体となり、構造材と呼ばれる柱や梁の取引が問屋から年々消えて行った。さらに中小工務店や木材店は後継者や若手社員の減少で徐々に活力を失っていった。弊社も先の見えない経営が続いていた。
何を扱えばいいのか?
 構造材の販売が激減する中、内装材の販売に特化できないか考えた。マンションや店舗の内装など、木材は部屋の中に使われることが最良ではないか。さらにシックハウスそしてアレルギーといった問題に貢献できる。いつか見直される時が来ると。
 しかし、ムクの木材を使う時必ず表面をきれいに削らなければならない。弊社にはその設備がなかった。外注で用は足りるから任せて何もしないという選択肢はあった。しかもその設備をするには最低でも何千万というお金が掛かる。零細企業には大変な決断である。何年も掛かったが何とか父親を説得し、8年前に木材加工機を導入した。
 当初まわりからは、「今さら大丈夫か?」と冷やかな対応もあったが、タイミングよくベテランの工場長を迎えられ、その後増員した社員も技術の向上に努めた。成功とは言えないが、以前よりも活発な商いが出来るようになった。そして、何より自分に初めての武器が備わった気がした。
木材需要の減少
 とはいっても和室を必要としないライフスタイルから、ムクの木材が増える傾向は見られなかった。同業他社が減ることで一時的に得意先や仕事は増えても、事業縮小・廃業が多いため全体的な木材需要は減少が止まらない状態であった。
 工場も小口の注文は増えたものの生産性は上がらず、残業は増え売上げは伸び悩んでいた。それでも生産性を上げようと、機械を増やしたが、簡単に解消出来る問題ではなかった。
活路はどこに?
 以前から木材乾燥機に興味があった。乾かせば安心して出荷でき、お客様は喜びクレームもなくなる。乾燥代ももらえ、乾燥中は人手が掛からない。どうにか導入出来ないものか?常にレイアウトを考え何とか工場内に置けないか考えたが、合うものは見つからなかった。
 最後の選択肢に残ったのが、知名度も何もないバイオ木材乾燥機だった。早速、開発者にお会いし詳しくお話を伺ったところ、細胞学から開発されたバイオ乾燥は、木材をまったく傷めることなく短時間で乾燥させるという。しかも設計、乾燥工程も自由に決められ、熱源は電気だけ、本体は杉を使った木造、温度は40℃以下、ネックであったボイラーも必要としないことからイニシャルコストは約1/5・ランニングコストは約1/6(化石燃料を使う高温乾燥機に比べ)に抑えられるため弊社に向いていた。将来的には電気を太陽光発電などでまかなえる可能性もある。
 新木場に木材乾燥機が1台もなくなってしまったのをきっかけに、初めての事業で不安もあったが「乾燥機は絶対に必要。失敗したらやり直せばいい!」と決断。最初は得意先から注文を受けても、「自信はあるがやってみなければわからない」という無責任さ。しかし、結果は見事に木材を乾燥することが出来た。
 さらに数々の改良を加え、乾燥機をベストな状態に仕上げ直し実用新案を取得。現在世界に類をみないエコな木材乾燥機が会社を支える一つの柱になっている。
評価
 今までは木材も食品も、天然乾燥が最高の評価だったと思います。しかし、バイオ乾燥は天然乾燥の欠点を克服してさらに質を高めます。
 バイオ乾燥で評価すべきは、反らない、狂わない、割れにくい、ヤニが止まる、強度が落ちない、本来の木の色がでる、木の香りが残る、酸を出さない、カシやケヤキなどの広葉樹の乾燥、梁や丸太の乾燥など、今まで不可能だった乾燥を実現させ、多くの実績と成果を残してきたことです。乾燥機を3年間使ってきましたが、重要文化建築物、社寺建築などのお手伝いをさせていただき、得意先や大工さんからお褒めや応援の言葉を頂戴しております。
 今では全国の製材・木材業者、地方自治体、林業関係者、大手メーカーが見学に来られています。乾燥機を見て体感すると、木の喜びが伝わるのでしょうか、皆さん笑顔になります。ムクの木材には乾燥・加工が必要不可欠であり、特に乾燥の質が問われてきています。

 評価は国内だけでなく世界に広まることが目標です。地球環境からも自信を持ってこの技術をお薦め致します。林業が再生されれば地域に雇用が生まれます。山が復興すると海がよみがえります。未来の人たちの豊かな人生、そして、豊かな地球を守るためにこれからも木を通じてがんばろうと思っています。

※ この文章は『商工金融』7月号に掲載されております。

 



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