東京木材問屋協同組合


文苑 随想

私は鉛筆を舐めながら物を考え行動する人間
─パソコンも使えない。若い人達について行けないで困っている─

榎戸 勇


 日銀が4月27日の金融政策決定会合で追加の金融緩和を決定した。28日から30日迄は祭日続きなので5月1日から実施されることになると思う。内容は現在の資産買入資金を5兆円増やして市中にある国債の買入を増やし、市中の金を増やして経済活動を活発にしようとの政策である。

 しかし、この政策が有効なのか私は疑問に思っている。
 現在の経済では我国だけでなく米国もケインズ政策を使えない。国も地方自治体も沢山の赤字を抱え、これ以上負債(国債や地方債)を増やせば、国債地方債の価格が値下がりする。日銀が国債を買入れて財政を助けていると市場に思われると、財政規律への不信感が広がり長期金利が上昇して設備投資や住宅ローン等の金利が上昇し、かえって経済活動を不活発にすることになろう。

 ケインズ政策が使えるのは公定歩合が高い時だけである(ケインズもそう言っている)。公定歩合が3%の時に1%下げ、更に国債の買入れで市中に資金を供給すれば経済活動を活発にすることができる。しかし現在日本の公定歩合は限りなくゼロに近く銀行預金の利息もゼロに近い。これ以上金利を下げることは不可能である(米国も同様である)。優良企業の借入金利は非常に安いらしい。しかしそれらの大企業は低利で調達した資金のかなりの部分を海外投資に使っているようだ。国際収支報告でも貿易収支の黒字は少なく、資金収支(海外投資での収益金)の方が多い。国内の工場を縮小または閉鎖してベトナム、タイ、ミャンマー(ビルマ)更に南インドに迄生産設備を増やしている(中国より賃金が安く、従業員も集めやすいとのことである)。
 自動車もその心臓部のIT部分を日本で造りコンテナで現地へ送れば、ボディやタイヤ、ガラス等は現地生産品でよい。ブリヂストンのタイヤ工場も現地にあるらしい。

 また、テレビの番組で、「これは何を造っているのでしょうか」というのがあったが、何を造っているのか全く分からなかった。全てITを組み込んだ機械が素早くしかも正確に作動し次の工程へ送り、次の工程も同様で次々と素早く送られて最後に出てきた完成品を初めて見て驚いた。人手はほとんど不要で、作業員は機械が正確に動いているかどうかを見ているだけである。これでは所謂ブルーカラーの作業員は要らない。
 最近、工業高校の機械工学科やIT技術科等への入学希望者が増えていると3月頃の新聞にでていたが、その理由がやっと分かった。実務を教える工業大学や工業専門学校も人気がある。一橋大学は国立大学の東京工業大学とかなり以前から提携しており、教授が相互に特別講師としてお互いの学生に講義しているらしい。時代は文科系理科系の垣根を越えているようだ。私のようなアナログ人間、ITは疎かパソコンも使えない者は役に立たなくなっている。会社の月次収支計算書、決算時の税引前迄の貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書は孫がパソコンで作り税理士に郵送し、税理士が法人税等の計算をして知らせてくれるとその金額を記載した決算関係書類を孫がパソコンで作成している。孫は経済学部出身だが、卒業して入社後3ヶ月簿記学校へ通って、日本商工会議所の簿記検定試験の3級、そして更に2級を取得したので完璧だ。しかし孫は会社での主たる仕事は営業なので、月曜日か火曜日の午前中だけ経理担当者が作成した一週間分の振替伝票と総勘定元帳をチェックし、毎月月初にパソコンで貸借対照表と損益計算書を作成して社長と私にくれるので私はそれを眺めるだけである。中小企業、特に家業の経営者は会社が儲かっているのかどうかを常に把握していなければならない。それを分からずに只我武者羅(ガムシャラ)に造ったり買ったり売ったりしていたらとんでもないことになる恐れがある。また自社の収支や動きを知ることによって自社の欠点や弱点が分かりどうするべきかの対策を立てることもできよう。
 私はすでに非常勤取締役なのでほとんど口を出さないが、社長も孫もよく分かっているようで、何とか収益をあげようと努力しているようだ。木材営業は非常に厳しいが、導入した低温乾燥は何とか軌道に乗ってきたようである。しかし収入の柱は建物の賃貸収入に依存しているが、現在の新木場の状況ではやむを得ないと思う。社長以下皆頑張っているので私は何も言わずに静かに見守っている毎日である。

 経済政策は非常に難しい。必ず副作用がある。フランスのサルコジ大統領が大統領選挙で敗れ、社会党のオランド氏に代った。任期は5年間である。サルコジ氏の敗因はドイツと同様の緊縮財政政策を行ったため、失業率が約8%から約10%に増え、フランス経済が沈滞してしまったからである。ドイツはギリシャ、ポルトガル、そしてスペインやイタリアにも緊縮予算で財政赤字を大幅に減らすように求めた。しかしギリシャは6日の総選挙で与党は大敗、積極財政を進める野党に代わることになった。

 日本や米国は公定歩合がゼロに近く日銀の資金供給が多いので、日銀が今回行った10兆円の資金を更に供給することに疑問符をつけたのである。

 しかし、南欧諸国、そしてフランスも現在は積極財政策が必要である。フランスもギリシャも財政均衡策から積極財政策へ変えるであろう。それを見てイタリアやスペインも変えるかも知れない。

 私は新聞で見る世論とは逆で、それらの国の政策変更に賛成である。何とか経済が前向きに動き出す迄は必要だと思う。そして自力で前向きに動き出したら徐々に手綱を締めていけば良いと思っている。

 6日のフランスとギリシャの選挙結果を見て7日の株式市場はどの国も大幅に値下がりした。私は現在上場株式は持っていないので岡目八目(オカメハチモク)で客観的に見られるが、株式市況は若干でも上がるべきだと思う。

 以上、6日のフランス、ギリシャの件以降の文章は全く私の独断なので、そのつもりで読んで頂きたい。退役老人の独り言である。

平成24年5月8日 記
 

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