『歴史探訪』(104)
江戸川木材工業株式会社
常務取締役 清水 太郎
「天災は忘れた頃にやって来る」と警告したのは、物理学者で文学者でもあった寺田寅彦氏でありました。大正12年(1923年)9月1日、奇しくも210日、午前11時58分、関東一円を巨大地震が襲いました。17万戸以上の家屋が倒壊、38万戸以上の家が焼失、死者、行方不明者は10万人以上に上りました。経済的損失は55億円。当時の国家予算が14億円でしたから、如何に甚大であったことか。国家存亡の危機でありました。
東京大学地震工学の河角博士は、関東大震災69年周期説を唱えました。プラスマイナス10年の幅を考えますと、1982年(昭和57年)〜2002年(平成14年)で、阪神淡路大震災は1995年(平成7年)で該当しますが、東日本大震災は2011年(平成23年)で88年後となります。今では、寺田先生の格言も、河角先生の周期説もあてにはなりませんが、近いうちにかなり高い確率で来ると云われている南海トラフ地震の方が恐ろしい。精々、2回の大震災の経験を生かして、普段から国土強靭化、建物の耐震化に努め、避難の体制づくりを心掛けるしかありません。
先月号でも述べましたが、木材会館を見学に来てその素晴らしさに感動しておられた友人のK氏が某公職退任の挨拶で「建設業界で話題になっているのは、2020年東京五輪に関わる公共事業や震災の復興であるが、それらは一過性の問題であり、それよりも今まで経験したことのない異常気象による国土の損傷の対策の方が大きな問題である」と述べておられます。氏のコメントから3ヶ月経たないうちに、広島の中山間地域で、普段の1ヶ月分の雨が1日で降り、崖が崩壊して大きな被害が出ました。
中山道の南木曽でも崖崩れがありましたが、歴史のある地域では経験豊富で、危険な区域に住宅は建っていません。新興住宅地は中山間地域で開発造成されることもあり、自治体で危険区域に指定しますと、地価が下がる心配があって、殊更強く警告しないこともあるようです。
都内でも、地震や豪雨で荒川の堤防が決壊しますと、北区、荒川区、江東区、墨田区で冠水による被害で200万人以上の人が危険に晒される可能性があります。
私が大学の土木工学科に入学した時、志望動機を教授に訊かれ、「災害に弱い国土を強化する仕事に就き度い」と答えました。
卒業論文では、河川工学を専攻し、Y教授は、「赤羽の水害を防止する為に、樋門と云って大きなパイプを地下に埋めて、河川の下流に余分な水を流し洪水を未然に防ぐ研究をしなさい」と仰いましたが、私は仲間と離れて、利根川の流域に何ヶ所か雨量計を設置し、定期的に計って、電波等で集計し、上流のダム群と合わせて、栗橋に於ける瞬間流量を常に一定量以下に制御するシステムを構築したいと、今考えると青臭い理論をぶち上げた処、教授は「自分は指導しないから」と参考図書を十冊以上貸して呉れ、「よく勉強して発表しなさい」と仰いました。論文の中で、「雨量計は定期的にロボットにより発信することが望ましい」と書き加えました。
最近、御茶ノ水女子大教授藤原正彦氏の著作を読んでおりましたら、教授の父新田次郎氏が小説を書く傍ら、自動雨量発信装置を既に発明していることを知りました。藤原氏によれば、気象観測という本業を疎かにして、副業の小説に現を抜かしているとのことで、発明に対する評価は芳しくなかったようです。
ところで私の論文に対する評価ですが、教授陣は、熱心に私の説明を聞いて下さいました。若しかしたら、大学に残って研究をしては、と勧められるのでは、と思っておりました。しかし、教授の指導に逆らって勝手な研究をした咎めでしょうか、評点は合格点ぎりぎりの(可)を頂きました。
最近の発表によれば、赤道付近の海水の温度が上昇し、蒸発して巨大な雲が発生し、北へ移動して台風等と連動して豪雨となるそうです。原因はCO2等地球温暖化ガスの排出によります。地球全体のCO2排出量の20%以上を占める、中国、米国が率先して減少に努めないと、4.5%を占める日本がいくら減らしても地球の温暖化は止まりません。究極の目標は、技術の開発供与によるクリーンエネルギーの促進、太陽光エネルギー、循環型社会によるバイオマス発電、CO2地下埋設により地球の危機を救ってほしいものであります。
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