東京木材問屋協同組合


文苑 随想


『歴史探訪』(105)

江戸川木材工業株式会社
常務取締役 清水 太郎

 私が東海道を歩き始めたのは、20年前、1994年2月27日でありました。
 初春の朝、日本橋を振り出しに、約8ヶ月かかって、平安遷都1200年を記念する時代祭で賑わう京都三条大橋に辿り着きました。
 「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」東海道には2ヶ所の難所がありました。翌年1月17日に、阪神淡路大震災がありました。
 中山道への旅立ちは、震災の余韻が未だ残る、1996年6月でありました。
 「木曽の かけはし 太田の渡し 碓氷峠がなけりゃよい」と俗謡にもありますが、中山道には3ヶ所の難所がありました。
 木曽川には木の蔓で編んだ吊り橋が架かっており、芭蕉がここを通ったとき、「 かけはしやいのちをからむ蔦かづら」という句を残しております。
 友人の萱原画伯と木曽十一宿を行き、奈良井の旅籠に投宿し、翌日藪原宿へ向う鳥居峠で、画伯は「御岳を望む」というテーマで鉛筆画のスケッチを残しました。
 
鳥居峠にて、御岳を望む
 
藪原駅
 「木曽のナー中乗りさん 木曽の御岳ナンジャラホイ 夏でも寒いヨイヨイヨイ」
 これは有名な木曽節の冒頭ですが、私は夏でも寒い、という意味が解りませんでした。木曽の人に訊いて、木曽の山から材木を伐り出し、木曽川を棹一本で捌く筏師のことを「中乗りさん」と呼ばれていたことを知りました。冷たいしぶきがかかることと、急流を下る恐怖とで、成る程「夏でも寒い」という訳が解りました。今では途中にダムが出来て、勇壮な筏師の姿は見られなくなりました。
 新木場に於ても、丸太の取扱いが減って、筏が運河を遡る風景は滅多に見られず、筏乗りの芸や、労働歌として歌い継がれて来た木遣りは、木の日のイベント等で披露される伝統芸となりました。
 昔から愛されて来た木曽の御嶽山ですが、9月27日正午、突然恐怖が走りました。紅葉シーズンで、頂上で景色を愛でながら昼食を摂る人も多かったのでしょうか、水蒸気爆発でのどかな休日は一転、噴煙と岩石の飛来で地獄と化し、多くの被災者が出ました。
 私の長男は某企業の安曇野事業所に勤務しており、最近登山靴を持って行ったので、もしや、と思い、夜中の12時に電話が通じ、無事を知り一安心しました。その代わり、同僚の若い社員が3人で登山し、うち2人は命からがら下山しましたが、残る1人は亡くなりました。全く他人事とは思えず、お気の毒なことでありました。多くの被災者と共にお悔やみ申し上げ、ご冥福をお祈り致します。
 今回は私が知る限りに於いて、過去の火山の噴火について探訪し、今後の噴火や地震について予知する手立てはないものか考察します。
 以前、当社が耐震ビジネスを立ち上げる際大変お世話になり、現在は、CM(コンストラクションマネジメント)協会会員として活躍されている天川淳氏から頂いた貴重な資料を繙きますと、その中に、西暦600〜2011年の間、富士山の活動と大地震の年表がありました。
 富士山の記録に残っている最も古い噴火は781年にありました。以後800年、延暦年間に大噴火があり、848年、貞観年間に大噴火、その後1083年までに小噴火が12回ありました。その後、1708年、宝永噴火までの624年間は沈黙して居りました。以後現代に到るまで噴火はなく、1854〜55年、安政の地震で小さな噴煙が上った後、153年間、富士山は噴煙なしの状態が続いておりました。
 他の火山については、1783年6月8日、アイスランドのラキ山(1,725m)が噴火し、欧州は噴煙に覆われ作物が不作で6年後の1789年仏革命が起りました。ラキ山噴火の僅か17日後、1783年6月25日、浅間山が噴火し、天明の飢饉をもたらしました。
 最近では、1983年10月、伊豆七島の三宅島大噴火がありました。
 1986年11月、伊豆大島の三原山が209年振りに大噴火し、島民1万人以上が避難しました。
 野口雨情作『波浮の港』で「島の娘たちゃ御神火暮らし……」と歌われておりますが、火柱が上り、空を赤く染める小噴火は時々あったようです。
 1990年11月、雲仙普賢岳が200年振りに噴火、30名以上の死者が出ました。
 今度の御嶽山の噴火による被害は戦後最悪と云われております。
 (以下10月7日『日経新聞』より)
 気象庁では全国110の活火山のうち最も活動の盛んなものについて、24時間態勢で常時監視をしております。
 御嶽山については、9月中旬から地震の回数は増えましたが下旬に減少しました。噴火の7分前に山全体が膨張しましたが、警告は出されませんでした。
 地震予知の成功例は2000年の有珠山でありました。数日以内に噴火の恐れありと警告し、1万人が避難し、死傷者は出ませんでした。
 桜島の噴火予知的中率は9割以上あります。
 研究者がいる火山は有珠山、草津白根、雲仙普賢岳、阿蘇山、桜島の五山のみだそうです。
 ところで、地震、噴火について科学的に予知する手立てはないものでしょうか。
 (以下は最近買った『文藝春秋』10月号より)
 東京大学名誉教授M氏が考案した地震予測ですが、地表にある基準点(国内に約1,300ある)を観測分析し、人工衛星で変化を測定。

@ 週間異動、変動といって、7日分のデータをまとめて2週間遅れで公開し、地点の高さの差が4cmを超えるものについて注意、警戒します。
A 「隆起沈降量」を1〜2年前の高さからどの程度隆起または沈降しているかを分析。
B 「三角形面積変動率」
C 「累積変位」を測定、今までの実例から分析して地震の予知を行います。

 M氏は測量工学の専門家です。
 私は大学で測量工学を学び、卒業後ゼネコンで数年現場で実績を積み、国土地理院から測量士の資格を頂いたことがあります。
 ところが数十年を経た現在、測量の技術が飛躍的に進歩していることを知りました。現在に較べますと、私が修得した技術は、江戸時代の伊能忠敬の頃の技法と大差がありません。当社所有地の隣に超高層のマンションが建ち、境界の確認に立ち会いました。距離を測定する為に以前はスチールテープを引っ張って測っておりましたが、今では2点間に光を照射し、光が到達する時間に光の速度で掛けて、瞬時に距離が表示されます。
 GPSとは人工衛星を使って点の位置を測り、2点間の高さの差、距離を知ることが出来ます。
 これは米軍が開発した技法でありますが、あらゆる最小大端の技術を駆使して、地震の予知、噴火の警告が速やかになされ、災害からの避難、登山の安全が確保出来る時代が間もなくやって来ることでしょう。


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