『歴史探訪』(107)
江戸川木材工業株式会社
常務取締役 清水 太郎
先日(11月16日)、東海道ネットワークの会秋庭会長が、我が家に来訪され、27年3月を以て、会を終了、その後1ヶ年は休会とする旨を話されました。平成4年3月、会発足後22年を経て会員が高齢化し、若い人の入会もなく、例会時に多方面から参加する人数も減り、万が一の事故が起きる前に収束するのが得策とのことでありました。会長は律儀な方で、自宅のある藤沢からスタートして、全会員宅を訪問して了解を取り付けておられました。
私は入会後20年余、例会に参加する事を楽しみにしておりましたが、何の尽力も出来ず、申し訳ない気持ちでいっぱいでありました。長年お世話になったことに感謝し、20年以上に亘る関わりについて回想します。
私が東海道ネットワークの会に入会した切っ掛けは、平成6年の年末に、頂いた電話でありました。10月に東海道中を歩き終え、大変お世話になった下町タイムスの今は故き今泉社長の紹介で、読売新聞に記事が掲載されました。その記事をご覧になって、長老会員の飛澤さんから「東海道五十三次のルーツは、3月12日に奈良東大寺で毎年行われるお水取りの儀にあることを知っていますか。」といきなり話されました。そのような御縁で、翌年1月の例会に招かれ、50人以上の会員の前で、東海道中についてお話をさせて頂きました。即日入会の手続きをし、活動する中で、飛澤さんから御指導賜り、雄大な「善財童子が53人の聖人を訪ねて歩く夢物語り」について理解するまで5年以上かかりました。
飛澤さんは、製材工場やベニヤ工場に取付ける集塵装置を設計する技術屋さんでした。海外の工場に取付ける装置の稼動状況を指導する為にインドネシアに出張していた時、ジャワ島にあるボロブドゥールで仏教遺跡が18世紀に発掘され、見学に行き、500枚以上の石のレリーフを見て多くのことを知ったそうです。シルクロード沿いにある中国のホータン(和田)で生まれた釈迦の生まれ変わりと云われた善財童子が文殊菩薩に諭されて五十三菩薩を歴訪して教えを受け、最後に象に乗った普賢菩薩に邂逅して旅を終えます。これは東大寺の経典、華厳経に「入法界品」という一章があり、そこに記されています。「華厳五十五所絵巻」に善財童子が旅をして菩薩に逢う様子が描かれております。
東大寺お水取りの儀は3月12日深夜に行われますが、これは華厳経の発祥地ホータン(和田)で天山の雪解け水を地下水路により送られることに倣って、若狭の国から「お水送り」された香水を奈良で汲み上げて観音様に捧げて旅の安全を祈願します。
東海道五十三次は、家康の政治顧問、天海僧正が宿場を53の聖人に譬えて設定しました。53人の菩薩とは、老人あり、病人あり、遊女ありで、天海が定めた宿場(菩薩)を日本橋から順に記しますと
日本橋 文殊菩薩(教えの言葉) 人生転機の出会い |
(1)品川 |
徳雲比丘 み仏をよくよく心に念ずれば |
(2)川崎 |
海雲比丘 ひたすら大海を見つめ続けて |
(3)神奈川 |
善住比丘 限りなき修業の果てにや |
(4)保土ヶ谷 |
弥伽長者 さとりへの心は気高さを生む |
(5)戸塚 |
解脱長者 世尊は衆生に応じて様々に解かれる |
(6)藤沢 |
海幢比丘 清浄なる五体は法を物語る |
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以下十七宿省略 (7)平塚 (8)大磯 (9)小田原 (10)箱根 (11)三島 (12)沼津 (13)原 (14)吉原 (15)蒲原 (16)由比 (17)興津 (18)江尻 (19)府中 (20)鞠子 (21)岡部 (22)藤枝 (23)島田 |
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(24)金谷 |
獅子奮迅比丘尼 一身を多身に変じて説法す |
(25)日坂 |
婆須蜜多女 最高の遊女とは |
(26)掛川 |
瑟胝羅居士 み仏はいつどこにでもおられる |
(27)袋井 |
観自在菩薩 求むれば救いの手が差し伸べられる |
袋井は品川を出発して4月8日、お釈迦様の誕生日。観音様に邂逅して教えを聞く |
(28)見附 |
正趣菩薩 救いの手は速やかに |
(29)浜松 |
大天神 菩薩は天の大神がお守り申す |
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省略十八宿 (30)舞坂 (31)新居 (32)白須賀 (33)二川 (34)吉田 (35)御油 (36)赤坂 (37)藤川 (38)岡崎 (39)池鯉鮒 (40)鳴海 (41)宮 (42)桑名 (43)四日市 (44)石薬師 (45)庄野 (46)亀山 (47)関 |
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(48)坂下 |
無勝軍長者 み仏は拝もうと思えば何時でもまみえることが出来る |
(49)土山 |
最寂靜婆羅門 さとりへはただ真実にかけての誓いあるのみ |
(50)水口 |
徳生童子と有徳童女 一切世間は幻のごときもの |
(51)石部 |
弥勒菩薩(一) 大事のまえの思惟 |
(52)草津 |
弥勒菩薩(二) 不可思議なる館のうちに法界を観る |
(53)大津 |
再見文殊師利 人は褒むべきなり |
京都三条大橋 普賢菩薩 このうえないさとりの心は感応する 象に騎乗 |
飛澤さんはボロブドゥールへ行って御自分で作った解説書を旅人達に配っておられたそうですが、今では体調がすぐれず、例会にもおいでになれず、もう教えて頂けないと思うと残念でなりません。
秋庭会長は大変博学な方で、出版社で長年編集に携っておられ、会報や自身の著作を通じて、多くのことをご教示頂きました。
私が友人の画伯と歩いていた頃は、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』や広重の浮世絵が目安でありましたが、東海道ネットワークの会入会によって、全会員の知恵と研鑽が結集され、私の認識は大きく膨らみました。
休会となれば、なかなか仲間と接することも叶わず、今後の人生にぽっかりと穴が空いたようになることでしょうが、貴重な経験を宝物として一生大切にしたいと思っております。
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