春日大社は、奈良時代の初めに国家の平安と国民の繁栄を祈願するために創建された。春日大社第一殿の祭神である「武甕槌命」は常陸国(現在の茨城県)から鹿に乗り、春日大社をいだく御蓋山山頂に降臨したと伝えられ、その後、「経津主命」、「天児屋根命」、「比売御神」を迎え、768年(神護景雲2年)に称徳天皇の勅命により現在の地に四棟の本殿を造営したのが始まりと言われ、以後、現在に至るまで、多くの人々の祈りが春日の神々に捧げられてきたのである。
※上野平成館の入口午前。入場者は少ないが午後は かなり多いようだ。
春日大社では「式年造替」と呼ばれる社殿の建て替えや修繕が約20年に一度行われ、平成28年(2016年)には60回目を迎えた。今回のこの本展は、この大きな節目に、春日大社に伝来し、社外ではめったに拝観することが叶わない貴重な古神宝の数々とともに、春日の神々への祈りが込められた選りすぐりの名品をかつてない規模で展開するものである。「平安の正倉院」と呼ばれる春日大社に伝来した王朝美の精華を伝える古神宝類。祈りや願いを込め奉納された甲冑や刀剣。美しい自然に囲まれた聖地・春日野や神々の姿を表した絵画や彫刻。「千年」、すなわち「とこしえ」の祈りが今なお捧げられる春日大社の「至宝」が一堂に会する、大変貴重な機会であるので早速行って来た。
もう少々この御神宝について、詳しく説明を加えてみたい。
春日大社の古神宝は日本の美しい国風調のデザインの原点を残す宝物であり、戦乱で焼失することなく、「日本で唯一」の宝物が多数残っていることが特徴である。
※入口近くの看板、1月17日(火)より3月12日(日) までとなっている。
※平成館の中の入口の所。2階に展示場がある。
平安の正倉院とも呼ばれ、特に1930年(昭和5年)の第56次式年造替にて、政府により撤下された古神宝至宝揃いであり、主に天皇、上皇、関白などが春日行幸、春日詣の度に奉納された品々や、若宮社創建時に納められた御神宝などである。個別の数は国宝352点、重文971点であり、合計で1,323点にものぼる神宝が存在すると言う。
これは御本殿、若宮社の殿内で、神様の宝物として大切に納められ、古いものは千年近くの年月を経てきたからである。20年に一度だけ御仮殿に移され、それ以外は暗室の御殿の中に静かに奉安されている。人間の世界では千年も護られ続けるのは奇跡的だと思う。昔の書物に書かれている数々の素晴らしい物は現在ほとんど存在していない。戦い、火災、強盗、紛失など人々の生活の歴史の中で失われてきた。更に、春日大社には御本殿の中と同じように大切に神様の品を保管する宝庫(宝蔵)もある。さながらタイムカプセルのように平安・鎌倉時代より現代へと伝わったのである。すごいことだと思う。
これらを収蔵している春日大社の宝物殿は東京国立博物館東洋館、東京国立近代美術館などを設計した谷口吉郎氏による建築である。しかし、近年、震災などにより耐震基準が強化され、サントリー美術館、根津美術館などを担当した弥田俊男氏により耐震化と増改築設計が行われ、春日大社国宝殿としてリニューアルをして現在にいたっている。奈良にも足を運んでほしい。
そんなことから、この大きな節目に国宝・重文、1,323点の中から持ち出せる最大級の古神宝を250件、今回「東京国立博物館」(平成館)において特別展として展示することになった。
期間29年1月17日(火)〜3月12日(日)まで。
展示する古神宝を少々紹介してみたい。
※「赤糸威大鎧」 文中にも書いてあるが実に見事。
※「赤糸威大鎧」の中で「梅鶯飾」の方。 これも見事。
No.186国宝「赤糸威大鎧」(竹虎雀飾)
※ 700年間ほど御神宝として大切に宝庫にて保存されて来た。現存する鎧では屈指の格調の高さを持ち、制作された鎌倉時代当初の威毛が80%近く残っていることは、他に類例が無く、奇跡的な保存状態を保っている。鎧全体が高価なジュエリーをまとっているような装飾となっている。実戦での使用を無視した豪華絢爛さがあり、神様へ奉納するため特別に製作された。日本を代表する名品であり、多くの端午の節供の飾り兜のモデルとされていると言う。
鎌倉〜南北朝時代・13〜14世紀の作品鮮烈な赤の威毛と、細かい彫金技術をみせる鍍金の金物が目にもまばゆい華やかさをみせている。とにかくそのへんの鎧とわけが違う。豪華絢爛である。最後の方に展示されている。
No.185国宝「赤糸威大鎧」(梅鶯飾)
※ 800年間ほど御神宝として大切に宝庫にて保存されていた。竹虎雀とともに江戸時代の「集古十種」にも載る天下の名品である。この鎧もまた竹虎雀と同様に、製作当初の鎌倉時代の威毛が80%近く残る他に例を見ない稀な保存状態を保っている。優美で気品に溢れ、一つとして同じ意匠の無いおびただしい飾金物は精緻を極めている。八代将軍徳川吉宗が複製品を作らせたほどの名鎧で、復古調甲冑の手本となったと言う。残念なことに胴正面の弦走絵革の不動明王三尊が明治時代以降に剥ぎ取られているらしい。
鎌倉時代・13世紀の作品
梅や鶯などを透彫にした金物の華やかさが、兜や胴の力強さと見事に融合した日本甲冑の傑作である。
甲冑に興味のある人は絶対に見逃せない宝物である。
No.23国宝「蒔絵箏」
※ 千年間ほど奉安の御神宝として御本殿内に納められていた。現存する唯一の平安時代の蒔絵箏であり、蒔絵の最高傑作として知られている。流水の風景に種々の草々、雁、雀、オシドリ、虫など繊細で叙情的なストーリーで描かれ、和様意匠の原点として最高の作品であり、桐で製作され周りには宝相華唐草文螺鈿を配している。
平安時代・12世紀
金、銀、銅の研出蒔絵による流水文や飛び交う鳥や蝶。技術を凝らし、王朝意匠の粋を今に伝える平安時代漆芸品の最高傑作
No.58国宝「金地螺鈿毛抜形太刀」
※ 900年間ほど奉安の御神宝として御本殿内に納められていた。最新の調査の結果、金色の部分は純金により製作されている黄金の太刀であることが発見された。更に鞘は、精密な螺鈿にて猫が竹林で雀を追う様子が金蒔絵の中に動画のように描かれている他に存在しない意匠である。全体が黄金と螺鈿の白で輝きを放つ太刀である。細部まで究極の精密さを保ち、竹の葉や可愛い猫の点には青いガラス、猫や雀の目には玉が入り、自在な毛彫りは我が国の螺鈿表現の最高峰である。
平安時代・12世紀の作品
柄や鍔などの多くの金具は全無垢に文様を彫り出し、鞘は金粉を蒔き、螺鈿で雀を追う竹林の猫を表現する。まばゆく輝く黄金の太刀。見るしかない別品である。こんな太刀は見たことがない。
※奈良の本殿前の建物、塗り替えられたばかりの
鮮やかな色彩はすばらしい。
※釣灯籠、奈良で見てほしい、すばらしい。
※展示場にあるものでこれもすばらしい、これのみ
撮影が出来る
春日大社と言えば、灯籠があげられる。石灯籠に釣灯籠などがある。日本で最初に多数の灯籠を奉納されるようになったのがこの春日大社となっている。
昔、春日大社は奈良で一番明るいところであった。それは毎晩、3,000基ほどの灯籠に火が入り、そのゆらめく灯りで、幽玄な世界が広がる聖域であったからであると言う。
3,000基の灯籠のうち、有名な灯籠は武士や貴族のものだが、そのほとんどは庶民の信仰であり、その実に8割以上が商人を中心とした一般の方々による奉納であると言う。
なぜこのように多くの灯籠が奉納されるようになったかというと、平安時代末に若宮社が創建され、大変強い信仰が起ったからである。若宮様は春日大神様から御誕生された神様であり、奈良生まれで、天照大神様の御子神様であり、神楽殿も建てられ御祈祷も行われるようになった。更に例祭は大和一国の大祭である。そのため大宮と若宮を結ぶ御間道は重要な参道となり、鎌倉時代後半より次々と石灯籠が奉納されるようになった。現在全国にある室町時代の灯籠の7割近くはこの御間道に立っているという。
社寺で最初に多数の灯籠を春日大社が置くようになり、そのことは日本中の社寺に広まっていった。そのため個人の庭に置く普及型の灯籠さえも春日灯籠と呼ばれるようになった。
この石灯籠に刻まれた柄もいろいろあって大変興味がわく。この石灯籠の2,000基には様々な工夫を凝らしたデザインがあり、鹿、鶴亀、ミミズク、鹿に乗る寿老人、鶴に乗る福禄寿、鳳凰、孔雀、獅子、またいろいろな虫や自然、そして宝珠や家紋など多種多様なものが彫られている。
この石灯籠に興味のある方は春日大社に足を運びゆっくり見てほしい。将軍徳川綱吉の生母、桂昌院の灯籠、大型金属製立灯籠など見るだけでも楽しい。
その他1,000基以上もある釣灯籠の一部が今回展示されているが、中でも春日大社で最も美しい木製の釣灯籠を紹介しておきたい。
No.244「木製の釣灯籠」(瑠璃灯籠)
この内の1籠は本殿の中央右側に釣られており、夜は見事な光を放っている。(祭事の行われる時)
奈良県の重要文化財に指定されている鎌倉時代の瑠璃灯籠である。木製黒漆塗りであり、各面に連綴したガラスの瑠璃玉を張る美しい灯籠である。1038年(長暦2年)藤原頼通寄進と伝わるが、鎌倉時代の作とも考えられている。御本殿に掛かっていた大切な灯籠であると伝わり、鎌倉時代の後期の「春日権現験記絵」の中にも、各御殿に掛かっている様子が描かれているという。現在国宝殿にもあり、大変重要な灯籠であり、第60次式年造替において各御殿用に復元をしたという。
釣灯籠には有名人も多く、「徳川綱吉」、「宇喜多秀家」、「藤堂高虎」、「直江兼続」等々多くの著名人が奉納され、型もいろいろ変化に富んでいる。これも大変見事で現地本殿で見ると見事で豪華と言う他はない。
この有名人の釣灯籠は奈良の春日大社へ行くしかないが、前記の木製の瑠璃灯籠は今回上野で見ることが出来る。おすすめの絶品で是非見てほしい。
展示室の中に本殿の一部を再現し、本殿の正面にこの釣灯籠がかけられ、異彩な光を放っていた。必見。
今回の展示品250点の中でどれも大変価値のある神宝ばかりであるが、もう1点紹介してみた。
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※「木製の釣灯籠」
この瑠璃灯籠は木製でビーズだと言う。
火をつけると青くなる。火が灯り、
なんとも神秘的である。展示場で見ることが出来る。
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No.1〜No.8「鹿島立神影図」を取り上げる。
768年(神護景雲2年)に白鹿にお乗りになった武甕槌命様が、中臣時風と秀行を従えて、常陸国の鹿島神宮を出発され、添上郡御蓋山へ御来臨されたと書かれている。その後、香取神宮から経津主命様、大阪の枚岡神社から天児屋根命様と比売御神様が御来臨されたとあり、その絵図や御神影図であり、一般的には曼荼羅と呼ばないが、影響を受けてできたものらしい。何点かある掛け軸の中で、鹿島から江戸を通って、奈良まで行かれた大昔の事を想像するとロマンを感じるが、この時の様子、鹿に乗った「武甕槌命」神の図が何点かあり、大変興味をそそった。
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※「鹿島立神影図」
「武甕槌命」神が白鹿に乗り鹿島より出発する所という。
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今回の展示の中で普段は拝観できない春日大社本殿の一部を展覧会会場の中に再現、御殿の間の壁に描かれた「御間塀」は今回の造替で徹下されたものは本物で、祭祀の際の調度品や御簾の金具もかつて本殿で実際に使われていたものである。この展示場に居ながら春日詣を体感出来るチャンスと言える。
又、「太鼓」(総高6.2m×幅3m)は現在使われている本物でこの展示会場に運び込みが大変であったと係の人が言っていたが、大広間にデーンとあってすごい太鼓である。
いずれにしても貴重な国宝と重文ばかりでまれにしか見ることの出来ない宝物であり平安の正倉院とも呼ばれる名品をこの目で見ることが出来るチャンスと言える。
平成29年1月22日 記
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